貧慾
「貧慾にむさぼり續け……」と言ふ風に某雜誌に書かれてゐたが、貧慾は「貪慾」でなければならない。字體が似てゐるために誤󠄁り易いが、「貧」は音󠄁が「ヒン、ビン」で訓が「まづしい」であるから、貧慾では「ひんよく」と讀むしかなく、意󠄁味も慾が無いことになつてしまふ。一方、貪の音󠄁は「ドン、タン」で訓は「むさぼる」であるから貪慾は非常に慾が深いことになる。「むさぼる」と言ふ時に「貧」を使つてゐる例が多いのは、「貪」と言ふ漢字のあることを知らないためかもしれない。
2025年03月08日
日本語ウォッチング(75)「貧慾」/織田多宇人
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| 織田多宇人
2025年03月02日
かなづかひ名物百珍(43)「づばいもも(椿桃・油桃)」/ア一カ
![[づばいもも]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E3818BE381AAE799BE043E381A5E381B0E38184E38282E38282a-thumbnail2.jpg)
づばいもも(椿桃・油桃)
近󠄁年は「ネクタリン」の方が通󠄁りがよいだらう。桃の一種だがやや李(すもも)に近󠄁い。「づばい」は「つばき(椿)」の轉とされ、「づんばい」「づばいぼう」などとも呼ばれる。「油桃」の名は表面に毛がなくつるりとした肌ざはりに由來するらしい。
「づんばい(飄石)」は石つぶて、あるいはその遊󠄁びを指す語だが、恐󠄁らく桃と關係はないだらう。今ではもう身近󠄁な語とは言へまい。
![[ずんばい]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E3818BE381AAE799BE043E381A5E381B0E38184E38282E38282cE3819AE38293E381B0E38184-thumbnail2.jpg)
![[ずんばい]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E3818BE381AAE799BE043E381A5E381B0E38184E38282E38282bE3819AE38293E381B0E38184-thumbnail2.jpg)
鹿兒島方言で「ずんばい」は物がたくさんある意󠄁で、「ずっぱり」の轉である。こちらは燒酎の銘柄󠄁などで大いに活用されてゐる。
posted by 國語問題協議會 at 11:15| Comment(0)
| 高崎一郎
2025年02月22日
街中の正字・正かな・變體がな(5)「巖根・巌根・岩根」/押井コ馬
【主󠄁な漢字の新舊對應表】
變(変) 體(体) 舊(旧) 對(対) 應(応) 驛(駅) 稱(称) 圍(囲) 實(実) 廣(広) 覺(覚) 畫(画) 數(数) 斷(断) 當(当) 讀(読) 邊(辺) 圖(図) 觸(触) 戰(戦) 驅(駆) 殘(残) 學(学) 國(国) 兒(児) 亂(乱) 腦(脳)
![[岩・巌・巖]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E8A197E4B8ADE381AEE6ADA3E5AD97E383BBE6ADA3E3818BE381AAE383BBE8AE8AE9AB94E3818CE381AA05_E5B2A9E383BBE5B78CE383BBE5B796-thumbnail2.jpg)
千葉縣西部を走るJR內房󠄁線に「巌根」驛があります。驛としての正式名稱は「巌根」なのですが、周󠄀圍を見渡すと、駐󠄁輪場や交番をはじめ、「岩根駅」と書かれた看板をあちこちで見掛けます。
![[標識の岩・巌 「県道巌根(T)線235 木更津市岩根」とある]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E8A197E4B8ADE381AEE6ADA3E5AD97E383BBE6ADA3E3818BE381AAE383BBE8AE8AE9AB94E3818CE381AA05_E6A899E8AD98E381AEE5B2A9E383BBE5B78C-thumbnail2.jpg)
驛に限らず、「巌根」と「岩根」は共存してどちらも使はれてゐる事が、この標識から分ります(でもよく見ると誤󠄁字ですね。正しくは「厳根」ではなく「巌根」です)。
實は、「『巌根』と『岩根』のどちらで書いても同じ地名」といふ意󠄁識がここ木更津市で廣まってゐるのです。木更津市民の感覺としては、手書きする時は畫數の少い「岩根」で書く事が斷然多いのですが、地名とか、施設名でも出來た當初「巌(巖)根」と書かれてゐたものについては、「岩根」と書いても「巌根」と書いても「これ違󠄂ふ字だよ」といちいち言ふ事なく、同じものと受󠄁け止めがちです。
「岩」の字が常用漢字であるのに對し、「巌」の字は表外字なのですが、この字が今なほ忘󠄁れられてゐないのは、「巌」が昭和二十六(一九五一)年に人名用漢字(表外字だが人名に限り子供の名前󠄁に新たに使って良い漢字)に入ったのも一因かも知れません。確かに「巌」と書いて「いはほ(イワオ)」と讀ませる名前󠄁があります。
![[巖根村全圖]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E8A197E4B8ADE381AEE6ADA3E5AD97E383BBE6ADA3E3818BE381AAE383BBE8AE8AE9AB94E3818CE381AA05_E5B796E6A0B9E69D91E585A8E59C96-thumbnail2.jpg)
更に言ふなら、人名用漢字の「巌」は簡易字體で、正字は「巖」です(「厳」に對する「嚴」と同じです)。木更津市に合倂する前󠄁は、この邊りは「巖根村」で、「巖」の字の方の「巖根」と書かれてゐました(この地圖は昭和九(一九三四)年『巖根村全󠄁圖』の一部)。
シリーズ名の「正字・正かな・變體がな」のうち「正字」の話に本格的󠄁に入ります。戰後は正字の方の「巖根」が驅逐󠄁されたかと思ひきや、實は極一部で殘ってゐます。それは、信じられないかも知れませんが「學校」です。
昭和二十二(一九四七)年創立の巖根中學校は、現在は正門に「岩根中学校」と書かれてゐますが、校章には「巖中」の文字が入ってゐます。明󠄁治四十二(一九〇九)年創立の巖根小學校(當初は巖根尋󠄁常高等小學校)も、校章がほぼ似たデザインですが、舊デザインは正字で「巖小」、現行のデザインは簡易字體で「巌小」の文字が入ってゐます。また、これも信じられないかも知れませんが、巖根小學校の校門には正字の「巖」の字で「巖根小学校」と書かれてゐます。
學校で昔ながらの「巖根」「巌根」の表記が生殘ってゐるのは、私は素リらしい事だと思ひますし、國語表記の歷史のヘ育や、「漢字とはかういふものだ」といふヘ育にもなると思ひます。「複數の漢字表記があると兒童が混亂するのでは」なんて小さな親切、大きなお世話です。腦味噌の柔軟な子供達󠄁はすぐ順應します。
變(変) 體(体) 舊(旧) 對(対) 應(応) 驛(駅) 稱(称) 圍(囲) 實(実) 廣(広) 覺(覚) 畫(画) 數(数) 斷(断) 當(当) 讀(読) 邊(辺) 圖(図) 觸(触) 戰(戦) 驅(駆) 殘(残) 學(学) 國(国) 兒(児) 亂(乱) 腦(脳)
![[岩・巌・巖]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E8A197E4B8ADE381AEE6ADA3E5AD97E383BBE6ADA3E3818BE381AAE383BBE8AE8AE9AB94E3818CE381AA05_E5B2A9E383BBE5B78CE383BBE5B796-thumbnail2.jpg)
千葉縣西部を走るJR內房󠄁線に「巌根」驛があります。驛としての正式名稱は「巌根」なのですが、周󠄀圍を見渡すと、駐󠄁輪場や交番をはじめ、「岩根駅」と書かれた看板をあちこちで見掛けます。
![[標識の岩・巌 「県道巌根(T)線235 木更津市岩根」とある]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E8A197E4B8ADE381AEE6ADA3E5AD97E383BBE6ADA3E3818BE381AAE383BBE8AE8AE9AB94E3818CE381AA05_E6A899E8AD98E381AEE5B2A9E383BBE5B78C-thumbnail2.jpg)
驛に限らず、「巌根」と「岩根」は共存してどちらも使はれてゐる事が、この標識から分ります(でもよく見ると誤󠄁字ですね。正しくは「厳根」ではなく「巌根」です)。
實は、「『巌根』と『岩根』のどちらで書いても同じ地名」といふ意󠄁識がここ木更津市で廣まってゐるのです。木更津市民の感覺としては、手書きする時は畫數の少い「岩根」で書く事が斷然多いのですが、地名とか、施設名でも出來た當初「巌(巖)根」と書かれてゐたものについては、「岩根」と書いても「巌根」と書いても「これ違󠄂ふ字だよ」といちいち言ふ事なく、同じものと受󠄁け止めがちです。
「岩」の字が常用漢字であるのに對し、「巌」の字は表外字なのですが、この字が今なほ忘󠄁れられてゐないのは、「巌」が昭和二十六(一九五一)年に人名用漢字(表外字だが人名に限り子供の名前󠄁に新たに使って良い漢字)に入ったのも一因かも知れません。確かに「巌」と書いて「いはほ(イワオ)」と讀ませる名前󠄁があります。
![[巖根村全圖]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E8A197E4B8ADE381AEE6ADA3E5AD97E383BBE6ADA3E3818BE381AAE383BBE8AE8AE9AB94E3818CE381AA05_E5B796E6A0B9E69D91E585A8E59C96-thumbnail2.jpg)
更に言ふなら、人名用漢字の「巌」は簡易字體で、正字は「巖」です(「厳」に對する「嚴」と同じです)。木更津市に合倂する前󠄁は、この邊りは「巖根村」で、「巖」の字の方の「巖根」と書かれてゐました(この地圖は昭和九(一九三四)年『巖根村全󠄁圖』の一部)。
シリーズ名の「正字・正かな・變體がな」のうち「正字」の話に本格的󠄁に入ります。戰後は正字の方の「巖根」が驅逐󠄁されたかと思ひきや、實は極一部で殘ってゐます。それは、信じられないかも知れませんが「學校」です。
昭和二十二(一九四七)年創立の巖根中學校は、現在は正門に「岩根中学校」と書かれてゐますが、校章には「巖中」の文字が入ってゐます。明󠄁治四十二(一九〇九)年創立の巖根小學校(當初は巖根尋󠄁常高等小學校)も、校章がほぼ似たデザインですが、舊デザインは正字で「巖小」、現行のデザインは簡易字體で「巌小」の文字が入ってゐます。また、これも信じられないかも知れませんが、巖根小學校の校門には正字の「巖」の字で「巖根小学校」と書かれてゐます。
學校で昔ながらの「巖根」「巌根」の表記が生殘ってゐるのは、私は素リらしい事だと思ひますし、國語表記の歷史のヘ育や、「漢字とはかういふものだ」といふヘ育にもなると思ひます。「複數の漢字表記があると兒童が混亂するのでは」なんて小さな親切、大きなお世話です。腦味噌の柔軟な子供達󠄁はすぐ順應します。
posted by 國語問題協議會 at 20:20| Comment(0)
| 押井コ馬