2015年08月24日

【☆はがき一枚の国語】 氣になる言葉 大喜多俊一


使ひ方がまちがつて本來の意味が擴大され、それが通用してゐる言葉として、好まない語をいくつか擧げてみる。
@續投、Aトップバッター、B結果、C犠牲、などである。

@・Aはもともと野球の用語であつたものを、@は役職の繼續の意味にもその他の繼續の場合にも多く使はれるし、Aは最初の出演者や演技者のことにも使はれる。Bは、練習不足で結果が出ない、などと好結果
のことだけに限定して使はれる。練習不足なら、悪い結果も出るといふものである。Cは今やもとの意味がわからないまま、自然災害や不可避の事件のために不利な状況におかれた場合によく使はれる。自然災害の犠牲者などといふのは、恐らく死亡者といふ端的で露骨な表現を避けるためにマスコミが使ひ出したのであらう。用語は正しく使ひたい。

どういふことが氣になるかいへば、意味が大きくずれてゐるのに、それを平氣であたりまへのやうに使ふ無神經さである。また、野球の解説者の中には、犠打のことを「バンド」といふ人が多い。英單語を知らないことを露呈してゐて、恥づかしい。犠打から、「犠牲」のもとの意味を解すれば犠牲者を死亡者の意味に解するのは、あくまで比喩的に使つたものであることが理解できよう。なほ、野球の公共の放送で、廣島力ープのエース前田健太投手をマエケンといふアナウンサーや解説者も數知れず、その無神經さが氣になる。


posted by 國語問題協議會 at 18:54| Comment(0) | 大喜多俊一

2015年08月15日

きやりこの戀(11) 美國徳國 雁井理香

きやりこの戀(11) 美國徳國 雁井理香(かりゐりか)

きやりこ:
 先生の事務所、掃除が行き届いてゐて、綺麗ですよね。高級住宅街の真ん中にあるし。先生のお仕事つて、何なのですか。
オスカー:
 某藝能プロダクションの専属で、アイドルの発掘をしてゐます。日本の女の子、外人に弱いから、竹下通りで声掛けるとすぐ引つかかる。
きやりこ:
 そんなお仕事なのに、どうして本棚に「諸橋轍次 大漢和辭典全十三巻」が並べてあるんですか。
オスカー:
 女の子引つ掛ける小道具ですよ。
きやりこ:
 ぢやあ、この部屋には女の子しか入れないんですね。いやだあ。
オスカー:
 そんなことありませんよ。優ちやんも来ましたよ。
きやりこ:
 優ちやんは美少年だから、女の子みたいなものでせう。アメリカ人つてみんな変態。ところで、なんでアメリカのことを「米国」つて言ふの? 米食べるのは日本ぢやない。
オスカー:
 日本は米食べるのに、「じゃパン」つて言ふぢやないですか。それと同じですよ。日本人が米食べてるのを見て、アメリカ人は、「パンの代りに米食べてる。邪道だ」と思つて、「邪パン」と呼んだのです。
きやりこ:
 やめてよ。読者が本當かと思ふぢやない。
オスカー:
 本當ですよ。仮に間違つてゐるとして、何か実害がありますか。
 「米国」ですが、ペリーがやつて来た頃、日本人は「アメリカ」に「亜米利加」といふ漢字を宛てたのです。
きやりこ:
 でもそれなら、なんで「亜国」つて言はないのですか。
オスカー:
 英語では、「アメリカ」は「メ」の所にアクセントがあるから、日本人もその特徴を聞き取つたのですよ。「メリケン」はAmericanのことですが、この場合には、弱い「ア」を無視してしまつてゐます。
きやりこ:
 「メリケン粉」は小麦粉のことでせう。江戸時代にも饂飩(うどん)を食べてゐたんだから、小麦粉はあつたはずですよね。なんで、饂飩粉といへばいいのに、わざわざ「メリケン粉」と言つたのかしら。
オスカー:
 小麦粉は、精製の仕方によつて、いろんな名前があるのです。メリケン粉と饂飩粉は用途が違ふのです。メリケン粉で饂飩作れないこともないと思ひますが。
きやりこ:
 イギリスを「英国」といふのはどうしてですか。
オスカー:
 「イングリッシュ」に「英吉利」を宛てたのです。
きやりこ:
 「英」は「エイ」だから、つながりさうにないけど。
オスカー:
 「英」は中国語では「ying イング」です。
きやりこ:
 エッ。中国語から来てゐるんですか。ぢやあ、中国語でも、アメリカは「米国」なのですか。
オスカー:
 面白いことに、日中共通なのもあれば、違ふのもある。アメリカは「美(mei)国」。
きやりこ:
 そしたら、「美人」と言つたら、アメリカ人のことか美人のことか分からなくなるぢやない。私なんか、日本人でアメリカ人といふことになつちやふ。
オスカー: 
 「美人」は「美人」で、「アメリカ人」は「美国人」。
 日本では、フランスのことを「仏国」と言ひますね。最初はインドのことかと思ひましたよ。仏さんの国だから。中国語では「法(fa)国」と言ひます。
きやりこ:
 ドイツは日本語では「独国」ですが。
オスカー: 
 中国語では「徳(de)国」。
きやりこ:
 どつちにしても、d が入つてゐますね。でも、ドイツつて、英語ではGermanyでせう。d なんか、ないぢやない。あら、私、おばかなのに、Germanyなんて知ってゐたんだ。
オスカー:
 ドイツのこと、ドイツ語ではDeutschlandと言ふのです。その形容詞がDeutsch(ドイッチ)なので、日本語では「独逸」または「独乙」で受けました。
きやりこ:
 もつと教へて。
オスカー:
 きやりこさんが知識欲に燃えて来ましたね。ベルギーは日本では「白耳義」。
きやりこ:
 ええッ!! 「しろみみぎ」ぢやない。
オスカー:
 訓読みしないでよ。音読みだと「はくじぎ」。それでも、全然つながりがないみたいですが、これが中国語の発音だと「バイアルイbaieryi」。「義」は北京語では「イー」ですが、南方音では「ギー」なの。それを使ふと、「バイアルギー」。少しベルギーに近くなつたでせう。
 北欧三国は、日本語では、「瑞・諾・芬」。中国語では、「瑞」と「芬」は日本語と同じですが、「諾」は「テヘンに那」に代ります。「諾」も「テヘンに那」も中国語の発音はnuo。古い中国語では「諾」だつたやうです。この三国のこと、わざとこれ以上説明しないでおきますよ。察しを付けて下さい。どれがどの国だか想像するんです。間違へて憶えるといけないから、ちやんと教えろといふ人がゐますけど、人に間違つて教へたつて、誰も分からないから、恥を掻くことはありません。
きやりこ:
 無責任だね。でも、なるほど、中国語をそのまま使つたのか。
オスカー:
 ところで、現代北京語ではベルギーは「比利時bilishi」です。「白耳義」は古い中国語。中国語の漢字の宛て方も時代によつて違ふのです。
きやりこ:
 日本では「比国」と言つたら、フィリピンのことぢやないですか。
オスカー:
 中国語ではフィリピンは「菲国」(文字化けしてゐるかも知れませんが、クサカンムリに「非」です)。「メキシコ」は日中共通で「墨国」。ハワイは日本では「布哇」、中国では「夏威」。
きやりこ:
 全然違ふんだね。
オスカー:
 「布哇」は日本の音読みでは「フアイ」、中国語では「buwa」ですから、これは日本で作つたのでせう。「夏威」は現代北京語でxiawei(シアウェイ)。これをハワイと読むのは、香港辺りの南方音に合はせたのだらうと察せられます。
 面白い文語文を教へて上げませう。

 帝国海軍は本八日未明、布哇方面の米国艦隊並びに航空兵力に対し、決死的大空襲を敢行せり。

きやりこ:
 かつこいい文だとは思ふけど、何のことか全然分からない。
オスカー:
 昭和十六年十二月八日の真珠湾奇襲の後の大本営海軍部発表です。
きやりこ:
 何。それ。
オスカー:
 パールハーバー爆撃のことです。
きやりこ:
 何のために爆撃なんかするの。
オスカー:
 戦争したんですよ。
きやりこ:
 日本がアメリカと? 勝てるわけないぢやない。
オスカー:
 だから負けたんですよ。僕、戦勝国民。あなた、敗戦国民。
きやりこ:
 知らなかつたけど、アメリカ人に言はれるとむかつくね。
オスカー:
 戦前は「ソ連」は「ソ聯」または「蘇聯」だつたの。中国語では今でも蘇聯。ロシアは「露西亜」(露国)。あと、オーストラリアは日本では「濠」(「豪」ですませることが多い)ですが、中国では、「サンズイに奥」。オーストリアは日本では「ツチヘンに奥」、中国ではただの「奥」。
きやりこ:
 ややこしいね。統一して欲しい。
オスカー:
 「剣橋」は? 音読みと英語読みと混つてる。国名ぢやないけど。
きやりこ:
 音読みは「ケン」。英語では「橋」は「ブリッジ」。エッ。まさか、ケンブリッジ?!
オスカー:
 あたり。明治時代の人が苦労して漢字を宛てたの。「牛津」はオックスフォード。
きやりこ:
 「牛」がオックスは分かるけど、「津」がフォードなのは?
オスカー:
 「浅瀬」のことをfordと言ふのですが、一方、「津」の字は「船着場」のことを言ふから、意味が近いと思つて宛てたのでせう。ぢやあ、「倫敦」はどうでせう。
きやりこ:
 あッ、それは見たことがある。「ロンドン」ね。
オスカー:
 偉い。感心した。では、「不倫敦」は?
きやりこ:
 --------------それは知らないね。「ロンドンでない」のだから、ワシントンかな。
オスカー:
 ははは。これは僕が作つたの。「フリントン大統領」。
posted by 國語問題協議會 at 16:54| Comment(0) | 雁井理香

2015年08月08日

歴史的假名遣事始め (八) 市川 浩

先月のクイズ解答
有難う、御目出度う、御早う ありがたう、おめでたう、おはやう
聞て、得て、飢て、去て きいて、えて、うゑて、さつて
飛で、彈で、喜で、恨で とんで、はづんで、よろこんで、うらんで
貰た、思た、借た、候 もらうた 、おもうた、かつた、さうらふ

音便
歴史的假名遣は原則として過去、特に延喜天暦までの文獻に表れた表記竝びにそれに基く造語表現に依據し、必ずしも發音には直接の結び附きが強くないのですが、音便には對應してゐます。此のことをもつて歴史的假名遣の發音との對應に不徹底があるといふ批判もない譯ではありませんが、此の音便は語の表記と言ふよりは寧ろ語の集團に對する或る共通の表記を示してゐるのです。即ち、
イ音便:カ、ガ、(サ)行四段動詞の連用形(まして→まいて)
ウ音便:形容詞、ハ行四段動詞の連用形
促音便:タ、ラ行四段、ラ變動詞の連用形
撥音便:バ、マ行四段、ナ變動詞の連用形
といふやうに音便とは特定の活用語群の連用形に起る現象で、これを夫々い、う、つ、んの假名で表記すると見ることができます。

練習問題
活用語の音便から樣々な語にも音便現象が起つてゐます。下記の文を歴史的假名遣表記で假名書きして下さい(問題の性質上一部慣用の宛字漢字を使つたり、送り假名を省略したりしてをります)。
透垣、判官贔屓、相手
公達、客人、上達部
合點、腹腔、石灰
posted by 國語問題協議會 at 09:49| Comment(0) | 市川浩