2016年02月13日

きゃりこの戀(18) 女性専用車  雁井理香(かりゐりか)


オスカー:
 JRの中に、こんな貼紙がありました。
「女性専用車は、小学生以下の男の子、お身体の不自由な方とその介助者の男性にもご利用いただけます」
きゃりこ:
 いやだ。女性専用車に乗つたの? 変態。イケメンだから許されると思つたんだね。
オスカー:
変な疑ひかけないで。昼間のことだよ。男が乗つちやいけないのは朝と夜だけでしょ。
 この貼紙、意味が解りにくいところがありますよね。
きゃりこ:
 そうだね。「小学生以下」というのが、小学生を含めるかどうか解らない。
オスカー:
 ほかには?
きゃりこ:
 「お身体の不自由な方」の「方」が、男だけなのか、女も含めるのか。あるいは女だけなのか。
オスカー:
 その下に英語の説明がありました。
 Boys of primary-school age and below, handicapped men and men who are helping handicapped persons may also ride in women-only cars.
 これならよく解るでしょ。
きゃりこ:
 あたし、英語苦手なんだよ。-------------------ああ、でも少し解る。and below があるから、「小学生全部」と「それよりも下」。小学校六年までは、男でも、女性専用車に乗つていいんだね。でも、このごろの六年生つて、悪い奴はワルだよ。痴漢しかねない。
オスカー:
 handicapped menとあるから、「お身体の不自由な方」は男だけ。
きゃりこ:
 えッ。「お身体の不自由な女性」は、女性専用車に乗つちやいけないの?
オスカー:
 さうぢやないよ。女性なら誰でも乗つていいんだから、わざわざそれは書かないで、男性の中で、乗つていい人だけを列挙してゐるのです。ここで、handicapped persons と書いたら、handicapped women は handicapped persons とwomenの両方に含まれて、重複が生じることになります。
きゃりこ:
 後に、別に、handicapped persons があるね。
オスカー:
 ここは「介助者の男性」も乗つていいと言つてゐます。「介助者の女性」は乗つていいに決つてゐる「女性」に含まれるから、もう言及する必要がありません。だから、ここでは、「介助者の人」とは言はずに、「介助者の男性」と言つたのです。一方、介助されてゐる人は、男でも女でもかまはないわけですから、handicapped men でも、handicapped women でもなく、handicapped persons とするのが適切でせう。ここで、handicapped men を使つたら、「お身体の不自由な女性を介助してゐる男性」は乗つてはいけないことになつてしまふ。
きゃりこ:
 英語だと正確に言へるんだね。英語の方が日本語より論理的なのかな。
オスカー:
 さう思ふ人がゐるから困るのです。英語の方が日本語より論理的なわけではなく、この英文を書いた人が和文を書いた人より論理的だつたといふに過ぎません。
 「小学生およびそれ以下の男の子、お身体の不自由な男性、お身体の不自由な方を介助なさる男性」とすればいいんですよ。
きゃりこ:
 なるほど。先生、日本語上手ですね。それとも、アメリカ人だから、日本人より頭がいいといふだけかな。
オスカー:
 そんなことを言つてはいけません。日本人の頭のいい人は、ものすごくいいですよ。たとへば、----------------。
きゃりこ:
 「たとへばねねさん」なんて言つたら、鉄拳が飛ぶよ。要するに、あたしだけがおばかといふわけだね。
オスカー:
 最初のところ、「介助者の男性にもご利用いただけます」の「にも」がをかしくない?
きゃりこ:
 ほんとだ。「介助者の男性もご利用いただけます」の方が綺麗だね。
オスカー:
 「女性専用車は」と言ひ出したから、女性専用車が主語のやうな錯覚が生じて、「AはBにもCしていただけます」と型通りの文法を守つたのでせう。でも、この文みたいに、「女性専用車」と「ご利用いただけます」の間が長くなつてゐる場合には、そんな理窟にこだはるよりも、語呂のいい方を選べばいいんですよ。
きゃりこ:
 先生のお話聞いてゐると、日本語を愛してゐるやうな所がありますね。
オスカー:
 うん。日本語大好きなんですよ。日本語をもつと美しく育てたいと思ひます。
きゃりこ:
 日本人つて、あんまり母語を愛してゐないみたいですね。
posted by 國語問題協議會 at 17:12| Comment(0) | 雁井理香