2021年02月11日

國語のこゝろ(4)「温故知新」/押井コ馬

【今回の要󠄁約󠄁】
傳統的󠄁な漢字やかなづかひによる本は
@新刊もあります
A古本、覆刻版、インターネットでも讀めます
Bキーワード檢索も便利です

【主󠄁な漢字の新舊對應表】
傳(伝) 讀(読) 檢(検) 舊(旧) 對(対) 應(応) 實(実) 擧(挙) 譯(訳) 會(会) 數(数) 學(学) 發(発) 賣(売) 國(国) 戰(戦) 獻(献) 勸(勧) 寫(写) 眞(真) 單(単) 乘(乗) 廣(広) 奧(奥) 譯(訳) 數(数) 圓(円) 來(来) 權(権) 總(総) 關(関) 濟(済) 處(処) 點(点) 當(当) 惡(悪) 靈(霊) 兩(両) 氣(気) 據(拠) 壞(壊) 廢(廃) 變(変)

■實は新刊もある
 今回もまた讀者からのリクエストをいただきました。「傳統的󠄁な漢字やかなづかひによる本はどこにありますか。探す方法をヘへてください」といふものです。

 まづ、傳統的󠄁な漢字やかなづかひによる本は、細々とですが、今でも新刊が出てゐます。「昔の本の覆刻」もあれば「新作」もあります。ここ三年以內に出た紙の本の一例を擧げてみます。

歴史的かなづかひによる本寫眞
「榲桲(まるめろ)に目鼻のつく話」 泉鏡花󠄁著 エディシオン・トレヴィル/河出書房新社
「日本刀」本間順治・著 岩波新書(赤版R-34)
「ポー傑󠄂作集」エドガー・アラン・ポー・著 渡辺温・渡辺啓助・譯 中公文庫 (漢字は新字らしい)
「日本漢詩五十撰」文語の苑・編󠄁 文字文化󠄁協會
「數學における言語」河田直樹・著 文字文化󠄁協會
「京キ空想喫󠄁茶店」九毱志保・著 月讀舍
「あさいらむ」ロクエヒロアキ・著 (近󠄁日發賣)
「國語國字」國語問題協議會 (年二回發行)
「みんなのかなづかひ」はなごよみ (每年發行。記事により漢字は新字も)

 電子書籍を含めると、更にたくさんあります。たとへば文字文化󠄁協會は新字新かなの本だけでなく、傳統的󠄁な漢字やかなづかひによる本の電子版も積極的󠄁に出してゐる版元です。

■戰前󠄁の文獻を探す
覆刻版寫眞
 古書店では、傳統的󠄁な漢字やかなづかひによる「文學全󠄁集」や、「戰前󠄁の書籍の覆刻版」が出てゐる事があります。どちらも、明治〜昭和の文豪の名作を讀みたい人にはお勸めです。
 文學全󠄁集によっては、新字新かなに、または漢字のみ新字(寫眞右下の筑摩󠄁書房󠄁「現代日本文學大系 宮本百合子 小林多喜二集」は新漢字・歷史的󠄁かなづかひだった)に直されてゐる場合もあるので、傳統的󠄁な漢字やかなづかひで讀みたい場合は買ふ前󠄁に內容を確認󠄁する事をおすすめします。
 ほるぷ出版の「名著復刻 日本近代文学館」「名著復刻 日本児童文学館」、講談社の「のらくろ」單行本(註:文庫版は新字新かな)など、傳統的󠄁な漢字やかなづかひのまま覆刻された全󠄁集が過󠄁去にたくさん出ましたが、現代でも探せば比較的󠄁入手しやすい方だと思ひます。
 一方、「復刻」と書きながら實際には新字新かなに直されてゐる事もたまにあります。たとへばハート出版の「復刻版初等科国語・国史・修身」と名乘る「国民学校教科書シリーズ」は、題名に「復刻版」とあり、新聞廣吿にも「原書から再現 挿絵 写真 図版」とありますが、表紙と奧附に申し譯程󠄁度に傳統的󠄁な漢字とかなづかひを使用してゐるものの、本文は新字新かなに直されてゐるやうです。

 「戰前󠄁・戰中の本物は手に入らないの?」それも決して不可能ではありません。~田~保町をはじめとする大きな古書店街で探せますし、「古本まつり」等のイヴェントで安く(數百圓から)入手出來る場合もあります。田舍のリサイクルショップの古本コーナーでたまたま掘り出し物が見附かる事もあります。是非探してみて下さい。

 インターネットで戰前󠄁の文獻を讀むのであれば、たとへば下記のサイトがあります。著作權が切れてゐる本のうち、作業が完了したものが無償公開されてゐます。
国立国会図書館デジタルコレクション
青空文庫

 江戶時代以前󠄁に多い、いはゆる「崩󠄁し字」で書かれた文獻はハードルが高いと思ってゐる人が多いかも知れません。そこで、崩󠄁し字の讀めるヴォランティアの知識を總動員して、翻刻つまり活字の文章に起󠄁こすプロジェクトがあります。ここには江戶時代の地震に關する記錄をはじめ、既に翻刻作業の完了した本がたくさんあり、探して讀むことができます。
みんなで翻刻(崩󠄁し字を讀めるので活字に起󠄁こしたい人向け)
みんなで翻刻サーチ(翻刻濟の文章を讀みたい人向け)

 Google Booksは、Googleが集めた世界中の書籍を檢索できるサイトです。本の題名や、本文の語句で調󠄁べることができますから、「特定の言葉が、どんな本にどのやうに載ってゐたか」を調󠄁べるのに向いてゐます。誤󠄁字があったり(文字起󠄁こしは機械が行ってゐるので)、關係ない中國語の書籍も一獅ノ引っかかったり、著作權處理の完了してゐない本は本文が讀めなかったりするのが難點ですが、「當たりを附ける」のには便利です。
 キーワード檢索した後、「ツール」→「期間指定なし」をクリックすると、特定の世紀または「期間を指定」が選󠄁べます。日附を「月/日/年」の形式で(たとへば1946年11月15日なら「11/15/1946」)指定すると、年代を絞り込󠄁めるので、「戰前󠄁の本」とか「明治時代までの本」等に限定して檢索する場合に便利です。

 「青空文庫」や「国立国会図書館デジタルコレクション」にある本をじっくり讀みたい場合は、Amazon Kindle用の電子書籍版として覆刻されてゐる事があるので、探してみるのをおすすめします。たとへばこんな具󠄁合です。
たけくらべ - Kindle版
坊つちやん (国立図書館コレクション) - Kindle版

■キーワード檢索を活用しよう
 先の項で紹介したサイトにはどれも「キーワード檢索」の機能があります。ここで二つ例題を出すので、その機能を使って調󠄁べてみませう。


【例題1】以下の文章は正しいでせうか。
 戰前󠄁は「障害󠄂」を「障礙」か「障碍」とのみ書き、「障害󠄂」とは書かなかった。戰後にGHQが漢字を改惡して「障害󠄂」表記を押し附けた。

【調󠄁査方法】戰前󠄁の文獻で、本當に「障害󠄂」の表記が無かったのか、「障礙」「障碍」「障害󠄂」それぞれでキーワード檢索してみる。

 意󠄁外な事に、「障害󠄂」といふ表記は戰前󠄁の文獻でもたまに見掛けます。「障礙」「障碍」「障害󠄂」どの表記も使はれてゐたやうです。1956(昭和31)年の國語審議會による「同音の漢字による書きかえ」の表では、「障碍」を「障害󠄂」と書き換へる、となってゐるので、後者の表記は戰後に書き換へ語として創作されたと誤󠄁解しがちですが、實際にはさうではなかったやうです。

【例題2】以下の文章は正しいでせうか。
 日本では古来から「わたし」を「和多志」という漢字で書いてきた。しかし敗戦後、日本語の言靈(ことだま)の力を恐れたGHQは「和多志」という漢字を否定し、強制的に「私」という表記に変えさせた。

【調󠄁査方法】戰前󠄁の文獻で、本當に「私」ではなく「和多志」と書かれてゐたかを調󠄁べる。「私」「和多志」の兩方でキーワード檢索してみる。

 結果は明らかです。「和多志」のキーワードで檢索しても、一件も見附からないか、~樣の名前󠄁など「私」とは違󠄂ふ意󠄁味のものばかりです。一方「私」は、現代と同じ意󠄁味の資󠄁料が山ほど見附かります。その一例として、最近󠄁有名になった「アマビヱ」の出て來る江戶時代の文書にも、「私ハ海中ニ住󠄁アマビヱト申者也」「早く私シ写シ人々ニ見セ候得」とあります。
アマビヱ
 舊來の表記で書く人と言っても、すべての人が同じ動機とは限りません。ある人は子供の頃に學んだ表記を今でも使ひ續け、ある人はレトロな感じを出したくて使ひ、ある人は戰後の國語改革の方針に反對するので舊來の表記を使󠄁ひます。
 そして「舊來の表記には良い言靈が宿ってゐるから」と云ふ理由で使ふ人も中にはゐます。私は「言靈なんて非科學的󠄁だ」と非難するつもりはありませんし、言靈うんぬんは別として「言葉に力がある」のはある意󠄁味確かです。「緣起󠄁の良い字を選󠄁びたい」氣持もわかります。
 しかし、「『私』といふ言葉は戰前󠄁は使はれてゐなかった」といふ「噓」を根據に舊來の表記(?)を擁護する事には、私は反對します。今後の連載で詳しく說明しようと思ひますが、「GHQ=日本の魂を破壞しようと國語を改惡した大惡人」といふ事にして、そればかりに注󠄁目すると、「明治時代から漢字廢止を含め國語を大改造󠄁しようとした人々」といふ、本當に注󠄁目すべきところから目を逸らす事になりかねません。

×戰前󠄁は「わたし」を「和多志」と書いてゐたが、GHQが「私」といふ表記に變へさせた
○戰前󠄁は「わたし」を「私」または「わたし」と書いてゐて「和多志」とはまづ書かなかったが、日本人から成󠄁る「國語審議會」が「私」に「シ」「わたくし」の讀みしか認󠄁めず(昭和23(1948)年の「当用漢字音訓表」)、「わたし」とかな書きさせた(平󠄁成󠄁22(2010)年の常用漢字表改定で「わたし」の讀みが追󠄁加)
posted by 國語問題協議會 at 19:30| Comment(0) | 押井コ馬