【今回の要󠄁󠄁約󠄁󠄁】
@學校で學ぶ國語表記は「唯一正しい國語」ではなく、數ある流派の一つ(「學校流」?)です
A傳統的󠄁な漢字とかなづかひは異端視され、書く場を奪はれてきました
B文化󠄁の燈火は、みんなの見える場所󠄁で輝くべきです
【主󠄁󠄁な漢字の新舊對應表】
國(国) 祕(秘) 傳(伝) 學(学) 數(数) 燈(灯) 舊(旧) 對(対) 應(応) 權(権) 關(関) 默(黙) 辭(辞) 實(実) 體(体) 會(会) 發(発) 檢(検) 榮(栄) 賣(売) 續(続) 廣(広) 臺(台) 灣(湾) 變(変) 氣(気) 號(号) 當(当) 稻(稲) 參(参) 擔(担) 斷(断) 來(来) 踐(践) 藝(芸) 邊(辺) 拂(払) 圖(図) 縣(県) 獻(献) 稱(称) 卽(即) 册(冊) 輕(軽) 讀(読) 殘(残)
■國語には流派がある
以前󠄁の連載で解說した通󠄁り、言葉の書き方の決まりは、國や權威ある機關が定める場合がありますし、暗默の諒解や辭書などが事實上の標準になる場合もあります。
そして同じ言葉でも「流派」が複數出來る場合があります。英語だとイギリス英語とアメリカ英語(colourと書くかcolorと書くか等)、中國語だと繁體字と簡體字。日本語のかなづかひも「定家かなづかひ」「契沖かなづかひ」の二流派がありました。
ところで、この記事のやうな漢字とかなづかひで文章を書くと、「あなた方の書き方が正しい、私達󠄁の書き方が間違󠄂ってる、と勝󠄁手に極(き)め附けるのか」と非難されることがよくあります。
傳統的󠄁な漢字とかなづかひで書く人の多くは「傳統的󠄁な漢字とかなづかひを基本の書き方にしよう」とは言っても、「私達󠄁の書き方が正しくてあなた方の書き方は間違󠄂ひ」とまでは言ひません。自分自身必要󠄁に應じ「新字・新かな」で書く事もあります。そもそも個人的󠄁に書く國語表記を選󠄁ぶのは個人の自由です。問題なのは飽󠄁くまでも、「新字・新かな」を學校ヘ育で「基本の書き方」に無理矢理決めてしまったお上です。「新字・新かな」の決め方とか方針には大いに問題があると私は思ひますし、それを「基本の書き方」に選󠄁ぶ事には個人的󠄁に反對しますが、それでも「數ある國語表記の流派の一つ」だと私は思ひます。
■傳統的󠄁な漢字とかなづかひは、書く場を奪はれてきた
先のやうに非難する人々は、しばしば「言葉に正しいも正しくないもない」と言ひます。それなら、「新字・新かな」だけでなく傳統的󠄁な漢字とかなづかひで書いても一向に差し支へないはずです。
ところが「學校で習󠄁ってみんなが使ってる『一般的󠄁な』表記こそ相應しい、『一般的󠄁でない』表記は仲間內だけに留めて、みんなが見る場では書かない方が相應しい」と言ふのです。
「正しい・正しくない」と直接には言ひませんが、實質的󠄁に拔け穴を作ってゐるやうなものです。
自己流「マナー」を勝󠄁手に作って守らせる「マナー講󠄁師」のやうでもあります。
戰後日本は「民主󠄁國家」として「表現の自由」を尊󠄁重する社會として育ってきました。多くの國にある「國に登錄した出版社以外は出版物を發行できない」「出版物の發行前󠄁に事前󠄁檢閲がある」といふ制度は現在の日本にはありません。商業出版が榮えただけでなく、本日開催されてゐる「コミックマーケット」のやうにアマチュアが自由に出版物を作成󠄁して手賣り出來る類ひ希な國であります。
それでも、「傳統的󠄁な漢字とかなづかひで本を出したい」といふ人は、國語改革以降冷遇󠄁され續けてきました。
1.傳統的󠄁な漢字とかなづかひでの出版に協力的󠄁な出版社が見附けづらい
2.傳統的󠄁な漢字の活字や文字盤を持つ印刷所󠄁が絶滅寸前󠄁
3.傳統的󠄁な漢字とかなづかひで組版・校正出來る技術󠄁者が絶滅寸前󠄁
4.傳統的󠄁な漢字とかなづかひでの廣吿や書店陳列に協力的󠄁なメディアや書店が見附けづらい
私自身も國語問題協議會の會員から上のやうな話を時々聞きます。「新字・新かなに直してくれれば出版してもいいけど、このままでは難しいね」は日常茶事。(日本の傳統文化󠄁を守る事に積極的󠄁であるべき)保守系メディアや~社系メディアからでさへ、傳統的󠄁な漢字とかなづかひに否定的󠄁な意󠄁見を耳にしてがっかりする事もあります。
それでも骨のある人はあちこち步き回って協力的󠄁な出版社や印刷所󠄁を探し、たとへば傳統的󠄁な漢字の活字を殘してゐる印刷所󠄁を見附けたり、時には海外(臺灣だか韓󠄁國だかは失念)で印刷する事もあつたさうです。それでも校正には非常に苦勞したことは容易に想像出來ますし、宣傳や頒󠄁布經路も限られて大變だった事でせう。
國は傳統的󠄁な漢字とかなづかひでの出版を禁止してゐませんし、出版したから牢屋に入れられるわけではありませんが、「新字・新かなで妥󠄁協すればここまで苦勞しなくていいのに、傳統的󠄁な漢字とかなづかひにこだはる事はあるのだらうか」と、心が折れた人もきっと多い事でせう。
■文化󠄁の燈火は、みんなの見える場所󠄁で輝くべき
しかし現代はコンピュータ技術󠄁の進󠄁步により、コンピュータを持つ一人一人が、その氣になれば、きちんと活字體で印刷された本を出版出來るやうになりました。
國語問題協議會の會報「國語國字」は昭和三十五(一九六〇年)の創刊號は活版印刷でした。當初の印刷所󠄁は私もわかりませんが、二〇〇〇年代前󠄁半󠄁まで外部の印刷所󠄁を使ってゐたやうで、その最後の方は「早稻田大學印刷部」となってゐました。古參會員の話によると、大學論文で必要󠄁なので傳統的󠄁な漢字の活字があったのだらうといふ話でした。その後、漢字には「今昔文字鏡」や「文字鏡契冲明朝󠄁」フォントを使ひ、入力も傳統的󠄁な漢字とかなづかひで入力出來る「契冲」といふ名前󠄁のかな漢字變換システムを使って、印刷用原稿をWindows PCで組版するやうになりました。絶滅寸前󠄁だった組版職人の役目は自分で擔當出來るやうになり、印刷所󠄁も受󠄁け取った印刷用原稿をそのまま機械にかけるだけなので「舊字・舊かなだから印刷出來ません」と斷られる事が無くなりました。
ただし、編󠄁輯・組版・校正・販賣ルートの開拓をすべて自前󠄁でやるならば、の話です。
それでも、インターネット時代の到來により、遠󠄁く離れた人とも原稿を遣󠄁り取りしたり組版・校正作業を分擔したりしやすくなりましたし、印刷所󠄁にもインターネットでオンライン入稿出來るやうになり、大變便利になりました。
私個人は、國語問題協議會の「國語國字」DTP化󠄁(デスクトップパブリッシング=パソコンで印刷用原稿を作成󠄁すること)が進󠄁められてゐた時代にはまだ會員ではなかったので、その頃の樣子は傳聞でしか知りません。
一方、私自身もインターネットの自分自身のウェブサイトに傳統的󠄁な漢字とかなづかひで書いた記事を載せたり、平󠄁成󠄁二十三(二〇一一)年には「正かなづかひ 理論と實踐」といふ、全󠄁ページ歷史󠄁的󠄁かなづかひによる文藝同人誌を發刊しました。後に「みんなのかなづかひ」といふ名前󠄁の後繼誌を發刊し、現在も年一回發行してゐます。また、「みんなのかなづかひ」發刊の少し後邊りに國語問題協議會の會員になり、最近󠄁は「國語國字」の組版をはじめ傳統的󠄁な漢字とかなづかひでの印刷が必要󠄁な分野でお手傳ひしてゐます。
さて、「國語國字」の出版にも關はってゐるのに「みんなのかなづかひ」の發行を止めて一本化󠄁しないのはどうしてだらう、とお思ひの方もいらっしゃるかも知れません。「それぞれ目的󠄁が異なる」がその理由です。
「國語國字」は、主󠄁に會費を拂って傳統的󠄁な漢字とかなづかひを守る運󠄁動に協力したいと思ふ人々の爲の「會報」です。會員間で情󠄁報交換したり交流したりは勿論大切です。なほ、大學圖書やキ道󠄁府縣立圖書等にも獻本してゐます(が、どこまで活用されてゐるかは私もわかりません)。
一方「みんなのかなづかひ」は、「同人誌」を自稱してはゐますが、本當は會員制ではありません。年一回發行する每に、記事を書きたい人を募集して、勿論執筆者には無料で獻本されます。しかし、執筆者以上に頒布數の多いのが、一般の購󠄂入者です。先に擧げた「コミックマーケット」や、「文學フリマ」「コミティア」「おもしろ同人誌バザール」など、自主󠄁制作した出版物の展示卽賣會で頒布してゐます。
何故、一般の購󠄂入者を目的󠄁とした册子にするのでせうか。
1.傳統的󠄁な漢字とかなづかひを、仲間內だけの祕傳にしたくない
2.傳統的󠄁な漢字とかなづかひが今なほ現役で使はれてゐる樣子を公に知らしめる
3.傳統的󠄁な漢字とかなづかひで出版したい人に眞似をしてもらひたい
4.會員でなくても氣輕に讀める讀み物にしたい
5.傳統的󠄁な漢字とかなづかひで書いて出版出來る、「國語國字」とは異なる種類の場所󠄁を揩竄オたい
傳統的󠄁な漢字とかなづかひは、このまま行くと最期を看取るしかないのが殘念な日本文化󠄁の財產ですが、うまく活用すれば後世に殘り大いに活用されます。
文化󠄁の燈火を、見えない陰に隱すのではなく、機會を捉へて、みんなの見える場所󠄁で輝かせませう(國語問題協議會もこれまでよりは外部の人々を意識するやうになりました)。傳統的󠄁な漢字やかなづかひで書かれた本が今後も出版されて欲しい、出來れば「國語國字」「みんなのかなづかひ」等以外にも、傳統的󠄁な漢字やかなづかひで書かれた原稿が當り前󠄁に載る定期󠄁刊行物が揩ヲて欲しい、といふのが私の願ひです。
■宣傳
みんなのかなづかひ2022 http://osito.jp/dojin/pubs/c99a.html
2021年12月30日
國語のこゝろ(13)「『仲間內だけの祕傳』にするのではない」/押井コ馬
posted by 國語問題協議會 at 11:00| Comment(0)
| 押井コ馬
2021年12月11日
日本語ウォッチング(47) 織田多宇人
感慨もひと汐
「感慨もひと汐だ」と書く人がゐる。しかしこれは「感慨も一入(ひとしほ)だ」と書かなければならない。「ひとしほ」とは染め物を染め汁に一囘ひたすことことで、一囘染め汁にひたすことで、染める前󠄁よりも色が鮮やかに出てくるため、「ひときは、一層、一段」等の程󠄁度を表す副詞として用ゐられるやうになつた。「潮󠄀汐」(朝󠄁潮󠄀と夕潮󠄀)と言ふ熟語があるが、「夕方に干滿を示す海の水」の意󠄁である「汐」と「ひときは」とは何の關係もありさうにはない。なほ「一入」を「ひといり」と讀まないやうに御注󠄁意󠄁を。
「感慨もひと汐だ」と書く人がゐる。しかしこれは「感慨も一入(ひとしほ)だ」と書かなければならない。「ひとしほ」とは染め物を染め汁に一囘ひたすことことで、一囘染め汁にひたすことで、染める前󠄁よりも色が鮮やかに出てくるため、「ひときは、一層、一段」等の程󠄁度を表す副詞として用ゐられるやうになつた。「潮󠄀汐」(朝󠄁潮󠄀と夕潮󠄀)と言ふ熟語があるが、「夕方に干滿を示す海の水」の意󠄁である「汐」と「ひときは」とは何の關係もありさうにはない。なほ「一入」を「ひといり」と讀まないやうに御注󠄁意󠄁を。
posted by 國語問題協議會 at 00:00| Comment(0)
| 織田多宇人
2021年12月04日
かなづかひ名物百珍(14)「ミユキモール」/ア一カ
![[ミユキモールa]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E3818BE381AAE799BE014E3839FE383A6E382ADE383A2E383BCE383ABa-thumbnail2.jpg)
名古屋市內のショッピングモール(mall)。もと「御幸毛織(みゆきけおり)株式會社」の本社があったところで、「毛織」の宛字も兼󠄁ねてゐるのだらう。
![[ミユキモールb毛織水差]](http://kokugomondaikyo.sakura.ne.jp/sblo_files/kokugomondaikyo/image/E3818BE381AAE799BE014E3839FE383A6E382ADE383A2E383BCE383ABbE6AF9BE7B994E6B0B4E5B7AE-thumbnail2.jpg)
「モール絲」や「金モール」はポルトガル語「mogol」で、これはインドのムガール王朝󠄁特產の絹織物から來たものといふ。また金屬製の茶道󠄁具󠄁で、表面の紋樣が似たものも「もうる」と呼ぶ。漢字表記はムガールそのままに「莫臥兒」「莫臥爾」また「毛宇囘」「囘囘織」「毛織」などさまざまあり、假名では「もうる」「モール」が一般的󠄁である。ところが「モ(毛)+おる(織)」と解釋した「もおる」も實際には少くない。
先頭の語尾と後續の語頭で假名文字が異なりつつ重なる場合、「這ひ+入る=はひる」「東京キあを()+うめ(梅)市=あをめ市」「平󠄁泉もう(毛)+をつ(越)寺=もうつう寺」のやうに、先頭語が優勢になる場合が多い。ただし「愛媛󠄁縣にゐはま(新居濱)市」や「むかゐ(向井)去來」のやうに後續語が一字のものは殘るやうだ。また「群馬縣さわたり(澤渡)温泉」など、法則が成󠄁立たないものもある。
posted by 國語問題協議會 at 00:00| Comment(0)
| 高崎一郎