2022年07月13日

數學における言語(78) 中世~學論爭と數學−前󠄁期ヘ父哲學(T)

 「~學の婢」と稱せられた中世の哲學が、“ヘ父哲學”“スコラ哲學”とに分けられることはよく知られてゐます。
 ヘ父(Fathers of the church)哲學の前󠄁期の代表が「グノーシス派、護ヘ家、アレクサンドリア派(1、2世紀)」と呼ばれる人たち、そして後期を代表する~學者は言ふまでもなく「アウグスティヌス(354〜430)」や「ボエティウス(480?〜524)」です。スコラ哲學については、一般に形成󠄁期(9〜12世紀)、最盛󠄁期(13世紀)、衰退󠄁期(14〜15世紀)の3つに區分されますが、スコラ哲學のキングは勿論「トマス・アキナス(1225〜1274)」です。なほ私自身は「數學や應用科學」の著作も殘した衰退󠄁期の「ロジャー・ベイコン(1214?〜1294?)」にも大變興味を持つてゐます。因みに、ロジャー・ベイコンはもV諭󠄀吉の『西洋事情󠄁』でも紹介されてゐる人物です。
 さて、これから、もう少し詳しく中世の~學哲學について槪觀していきますが、その幕間に「平󠄁行線の第五公理」や「無限と連續」の“~學論爭”についても觸れていきたいと考へてゐます。
 “グノーシス”といふ言葉はすでに72回目のブログでも「ハビアン」に關聯して紹介しましたが、グノーシス派の人々は、「~や人類の起󠄁源、運󠄁命に關する啓󠄁示された『知識(グノーシス)』」に基づいて基督ヘを解釋しようとしました。彼等に大きな影響を與へたのは、新プラトン派のプロティノスと言はれてゐます。プロティノスについては、本ブログの50回目から54回目で縷述󠄁したので、それを參照して頂きたいと思ひますが、彼等はプロティノスの“一者”のやうな“最高~”を立て、この最高~の使󠄁者がキリストであり、この世界と人間の存在を、プロティノス同樣にそこからの“流出現象”として認󠄁識します。とは言へ、その“~學”は新プラトン派の學說よりはるかに尖銳で複雜だと言はれてゐます。
 グノーシス派は、2世紀に入つて、シリアやアレクサンドリアなどでその土地の密儀宗ヘと結びつき、さまざまな分派を生みだしながら發展していつたやうですが、その代表的󠄁な人物は『iケ󠄁書註釋』の著者パシレイデス、そして『眞理のiケ󠄁』を書き遺󠄁したヴァレンティノスです。
 “護ヘ家”とは、基督ヘこそ唯一眞實の宗ヘ、眞の哲學であり、それを合理的󠄁に辨證して、基督ヘを擁護しようとした人たち(apologists)のことです。その代表選󠄁手が、最初の“基督ヘ哲學者”と言はれるユスティノス(100?〜165?)です。彼はグノーシス派を烈しく批判󠄁し、『第一辨證論』、『第二辨證論』、『トリュフォンとの對話』などの著作を遺󠄁してゐますが、最期は六人の信徒たちとともにローマで殉ヘしたことは、知る人ぞ知る傳說です。
 ユスティノスの著しい特徵は、希臘哲學由來の“ロゴス”によつて基督ヘの根本ヘ義に一種の哲學的󠄁論證を與へた、といふでせうか。彼によると、ロゴスは~の言葉、~の理性そのものであり、世界はこのロゴスによつて創造󠄁され支配されてゐて、それゆゑロゴスは眞理の源泉である、といふのです。
 “ロゴス(logos)”とは勿論希臘語、それは元來人々の話す“ことば”であり、こんにちでは「言語、理性、理法」や「論理、槪念、理論」といつた意󠄁味でも用ゐられてゐます。餘談になりますが、logicは言葉・議論(log)の學問(ic)といふことで“論理”を意󠄁味し、高校數學で登場する對數(log)は正式にはlogarithmといひ、これは“logos”と”arithmetic(算術󠄁)”の合成󠄁語です。
 カルタゴのローマ軍百人隊󠄁長の子供として生まれたテルトゥリアヌス(160?〜220?)も希臘哲學に深く通󠄁じた護ヘ家です。彼もキリストを「受󠄁肉したロゴス」と考へてゐましたが、ユスティノスとは異なり「理性」よりもむしろ「信仰」を重んじて基督ヘを擁護しました。彼は、「非合理ゆゑに我信ず」と主󠄁張したと言はれてゐますが、實は私自身はこの點に非常な共感を持つてゐます。なぜさうなのか、この點については、次󠄁回に觸れてみたいと思ひます。    (河田直樹・かはたなほき)
posted by 國語問題協議會 at 13:45| Comment(0) | 河田直樹