2024年07月26日

街中の正字・正かな・變體がな(3)「京成󠄁立石驛前󠄁の商店街」/押井コ馬

【主󠄁な漢字の新舊對應表】
變(変) 體(体) 驛(駅) 舊(旧) 對(対) 應(応) 燒(焼) 點(点) 假(仮) 單(単) 竝(並) 處(処) 劑(剤) 藥(薬) 齋(斎) 兩(両) 稱(称) 氣(気) 来(来) 參(参)

 東京キ葛飾󠄁區にある、京成󠄁立石驛の近󠄁くの商店街は、歷史を感じる看板が澤山ありますが、その幾つかを紹介します。

 和菓子屋さん「ひらた」。「た」は「多」に由來するかなです。
街中の正字・正かな・變體がな03_ひらた.jpg

 右側は「どぜう 柳川なべ」、左側は「本場 どぜう」とあります。「なべ」の「な」は「奈」を別の形で崩󠄁した字です。なほ、江戶時代からの習󠄁慣なのか、飮食店では泥鰌を「どぜう」と書く事がありますが、正しくは「どぢゃう」です。
街中の正字・正かな・變體がな03_どぜう_柳川なべ.jpg

 「立石名物 手燒奥戸せんべい」とあります。「へ」は「遍󠄁」を崩󠄁した字で、それに濁點が附いてゐます。「燒」の字を崩󠄁すと、下のやうな形になる事にもご注󠄁目。
街中の正字・正かな・變體がな03_手燒奥戸せんべい.jpg

 以下の三つは變體假名ではありませんが、漢字の興味深い看板です。
 「洋品のダイマル」。「品」の字の下の口二つが繫がってゐますが、手書きの字では「品」「單」「器」など口二つがに竝ぶ字をこのやうに書く事がありました。
街中の正字・正かな・變體がな03_洋品のダイマル.jpg

 「甲州屋老舖 創業 明󠄁治十弐年」(その左側には「電(XXX)XXXX番」)とありましたが、「州」の草書體は難易度が高めです。「番」も見慣れないかも知れませんが文脈で分るでせう。それにしても明󠄁治創業とはすごい。
街中の正字・正かな・變體がな03_甲州屋老舗.jpg

 「處方調󠄁劑小林藥局支店」とあります。見事に正漢字……と思ひきや、「劑」の字の左側が「齋」になってゐます。誤󠄁字なのか異體字なのかは分りませんが、字典等であまり見掛けないので珍しいかも知れません。
街中の正字・正かな・變體がな03_處方調劑小林藥局支店.jpg

 これも變體假名ではありませんが、書字方向の興味深い看板です。左側の看板は右書き、右側の看板は左書きになってゐます。これに限らず、看板の左右兩方に同じ文字を書く場合、書字方向を「線對稱」にする事がたまにあります。
街中の正字・正かな・變體がな03_立石駅通り.jpg

 最後に變體假名の看板に戾ります。商店街で一番人氣の、行列の出來る店を紹介します。「もつ燒 うちだ」(インターネットの飮食店紹介サイト等では「宇ち多゙」と表記される事も)です。「う」は「宇」、「だ」は「多」に由來する變體假名のやうです。これだけならよくある只の變體假名の看板ですが、驚くなかれ……
街中の正字・正かな・變體がな03_もつ燒うちだ_左横書.jpg
街中の正字・正かな・變體がな03_もつ燒うちだ_右横書.jpg
 店の裏の看板は何と右書きです。右から「もつ燒 うちだ 煮こみ」とあります(「こ」は「古」に由來する變體假名です)。「表は左書き、裏は右書き」といふこれまた「線對稱」が面白い。私が行った時は店の表側と裏側に二つの列が出來てゐましたが、片方は一般客、片方は常連さんの列なのださうです。たゞ看板が古いだけでなく、今でも現役で澤山の人に愛されてゐるなんて、素リらしい事ではありませんか!

【參考資󠄁料】
【立石仲見世&中央通り商店会】昭和レトロ好きの宝物・立石商店街の魅力! | 商店街・横丁 | Deepランド
https://deepland.blog/tateishi-syoutenngai/

【東京・大衆酒場の名店】この緊張感は何だ? 行列しても入りたい立石「宇ち多゛」の強烈な魅力の噺
https://sakabanashi.takarashuzo.co.jp/cat3/WeZbH

【初潜入】宇ち多゛行列、独自ルール、怒号、その先にある絶品もつ焼(1万字レポ)
https://note.com/00kub0/n/n0ed54d93e490
posted by 國語問題協議會 at 21:15| Comment(0) | 押井コ馬

2024年07月19日

日本語ウォッチング(68)「責任を轉化󠄁する」/織田多宇人

責任を轉化󠄁する
 「責任を轉化󠄁する」とか「責任を轉稼」すると言ふ文章を時々見かけるが、勿論「轉化󠄁」も「轉稼」も間違󠄂ひで「轉嫁」が正しい。「轉」の音󠄁は「テン」で、訓は「ころぶ」である。また「めぐる」とか「うつる」と言ふ意󠄁味も持つてゐる。「轉化󠄁」と言ふ熟語はあるが、「うつりかわる」と言ふ意󠄁味で、責任を「てんか」する意󠄁には合はない。「稼」の音󠄁は「カ」だが、訓は「かせぐ」であって、「轉稼」では意󠄁味が通󠄁じない。「嫁」の音󠄁は「カ」で、訓は「よめ」あるいは「とつぐ」である。「轉嫁」は再び他に嫁入りすることで、それから「他に移し負はせる」と言ふ意󠄁になった。近󠄁頃離婚が揩ヲ、再婚(轉嫁)も揩ヲてゐるやうだが、まさかその所󠄁爲で責任轉嫁が揩ヲてゐる譯でもあるまい。
posted by 國語問題協議會 at 20:00| Comment(0) | 織田多宇人

2024年07月12日

かなづかひ名物百珍(36)「楪(ゆづりは、Daphniphyllum macropodum)」/ア一カ

[楪]
[楪]
[楪]
 常克名。「交讓木」「讓葉」とも。前󠄁年の葉が若葉に讓るやうに落葉する事から、正月󠄁飾󠄁りなど緣起󠄁物として、また家紋などに用ゐられる。

 しかし一說に弓の弦(つる)に似てゐるためともいふ。確かに萬葉集(2-111)に
「古に戀ふる鳥かもゆづるはの御井の上より鳴き渡り行く(弓削󠄁皇子)」
は原文
「古尓戀流鳥鴨弓絃葉乃三井能上從鳴濟遊󠄁久」
となってゐる。「弓弦抽x」は六甲山の異稱で、麓には弓弦蹄~社が鎭坐する。名前󠄁の相似から、フィギュアスケートの註カ結弦選󠄁手の應援󠄁祈願が多いといふ。

 いづれの語源說が妥󠄁當かわからないが、假名遣󠄁は「ゆづりは」で誤󠄁りないだらう。
posted by 國語問題協議會 at 19:40| Comment(0) | 高崎一郎