2015年11月12日

きゃりこの戀(15) ジパング    雁井理香(かりゐりか)


きゃりこ:
小泉進次郎のこと、中国語では、なんて呼ぶんですか。
オスカー:
好きになつたの? 若様が。
きゃりこ:
私は外の女とは違つて、権力者には惹かれません。誰でもいいんだけど、日本人の名前を中国語でどういふか知りたかつただけ。
オスカー:
権力者には惹かれないのに、外人には惹かれるの? 多少ましだけど、やや軽薄。中国でも、字で書くときは、「小泉進次郎」なんだけど、発音が大違ひ。Xiaoquan Jincilang(シャオチュアン・ジンツーランぐ/「ン」はn、「ん」はng)
きゃりこ:
音読みだと「せうせん・しんじらう」だから、似てるね。
オスカー:
そりやあ、古代中国語の真似をしたのが音読みなんですから、似てなかつたら大変ですよ。
きゃりこ:
「よしこ」とか全部仮名の場合は、どうするの。
オスカー:
櫻井よしこさんのことは、「櫻井良子」と書いて、Yingxing Liangzi(イんシん・リアんズ)と発音します。中国語のブログつて、櫻井さんのことをボロクソに言つてゐるんだけど、それでも「日本美人右翼」つて褒めて(?)ゐたのが面白かつたね。まあ、櫻井さんは本名が「良子」だから、それを宛てればいいでせうけど、もともと平仮名・片仮名の名前の場合は、それらしい漢字を宛てるやうですね。片仮名の「リカ」は「理香」にすることが多いみたい。
きゃりこ:
でも、「理香」は中国語では「リカ」とは読まないんでせう。
オスカー:
うん。雁井理香なら、Yanxing Lixiang(イェンシん・リーシアん)と発音します。片仮名の「リカ」でも、漢字にしないわけには行かないから、日本でよく使はれる「理香」の字を宛てます。漢字は日本式にするのですが、発音はどうでもいいといふことになつたのでせう。
 感心したのが、「みく」という平仮名の女の子の名前に、「実紅」を宛ててゐたこと。中国語ではShihong(シーホゥん)だから全然音が違ふ。多分、日本人に、「みく」つて名前は漢字はどうなるの、つて訊いたのでせうね。
きゃりこ:
「きゃりこ」はどうなるのかしら。
オスカー:
「小婆香」(シャオムーシアん)でせうね。
きゃりこ:
?????。まさか、「をぼかた」ぢやないよね。なんだろ。
オスカー:
読者もここは分からなくて結構です。
きゃりこ:
ところで、中国語では、「日本」のことは「倭」つて言ふんでせう。
オスカー:
それは大昔のことですよ。今では「倭」の字は複合語の中でだけ使はれます。中日辞典を引くと、「倭刀」、「倭瓜」、「倭寇」の三つしか出てゐない。
きゃりこ:
「倭刀」は日本刀のことでせう。「倭寇」も、私、おばかだけど知つてる。「倭瓜」が分からない、「日本の爪」つて、ひよつとして「琴」のことかな。和琴とかあるぢやない。
オスカー:
「爪」(つめ)ぢやなくて、「瓜」(うり)。
きゃりこ:
漢字つて、紛らはしくていやね。「日本のウリ」なら「柿」のことかしら。
オスカー:
はづれ。「かぼちや」のこと。かぼちやつて、カンボジア原産だから「かぼちや」といふんですよね。「日本の瓜」がどうしてかぼちやなのか分からない。日本経由で中国に入つたのでせうね。
きゃりこ:
ともかくも、日本のことを、ふつうは「倭」とは言はないのね。
オスカー:
日本のことは「日本」といふんですよ。「Riben」(リーペン)と発音します。
きゃりこ:
中国語つて、LとRの区別があるの?
オスカー:
LとRの区別はあるんだけど、Rがヨーロッパ語や日本語のRとは違ひ過ぎるので、たとへば、Andrewは「安徳魯」(Andeluアンドリュー)です。RをLで受けてる。
 だから、逆に中国語のRは、外国人にはRにもLにも聞えない。むしろ、NやJに近い。Ribenも「ジーペン」が近い発音ですね。ここから「ジパング」が生まれました。マルコポーロにはさういふ発音に聞えたのです。
きゃりこ:
最後の「グ」は何?
オスカー:
「日本国」の「国」だと言はれてゐます。現代北京語では、「国」はguo(グォ)です。
 ところで、現代北京語で、Rの音を持つ漢字は、日本の音読みでは、NやYやJで受けてゐるのが面白い。「如」はru。これが日本では「ジョ」または「ニョ」ですからね。「溶」はrongですが、日本では「ユウ」。「柔」(rou)は「ニウ」「ジウ」です。それに対して、日本語の音読みでラ行になるのは、中国語ではみんなL。楼(lou)、流(liu)、龍(long)。
きゃりこ:
「東京」の発音はどうなるの。
オスカー:
Dongjing(ドゥんジん/トゥんチん)。ピンインでは、engは「オん」。ongは「オゥん」あるいは「ウん」。
きゃりこ:
「北京」は「ペキん」でせう。「京」の字が「ジん」でなく、「キん」になつてる。
オスカー:
Peking(ペキん)は南方音の発音。ヨーロッパ人は、上海とか香港とか、南方から入つて來たから、南方音で漢字を讀むことが多くて、日本もかなりその真似をしてゐます。でも、最近は北京語で発音しようといふことで、「北京」のことを「ベイジん」とか「ペイチん」とか言つたりします。ピンイン(中国語アルファベット)はBeijing。中国語のbとpはヨーロッパ語や日本語のb, pときちんとは対応してゐないので、「ピ」でも「ビ」でも間違ひとは言へません。「香港」も南方音だから、北京語ではXianggang「シャんガん」と発音します。
きゃりこ:
中国つて広いからね。中国人同士でも話の通じないことが多いんでせう。
オスカー:
文法は同じだから、漢字で書けば分かるんだけどね。だから、中国の映画やテレビは、中国語の字幕が出ることが多いんですよ。
きゃりこ:
へええ。それは面白い。
オスカー:
日本でも昔は同じやうなことがありました。江戸時代に、陸奥国(むつのくに)から出た船が九州に漂着したことがあつたのですが、言葉が通じない。そこで----------。
きゃりこ:
そこで、筆談をしたのね。
オスカー:
うん。さういふ説もありますが、別の説に據ると、インテリらしい武士がゐたので、役人が「問ふ。汝、いづれの国よりか來(きた)れる」と話し掛けたら通じたといふことです。
きゃりこ:
さうか。文語なら通じたのか。
posted by 國語問題協議會 at 12:06| Comment(0) | 雁井理香
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