クイズで遊ぶ歴史的假名遣(三十五)
先月のクイズ解答
問題
下記の所論に問題があるとすれば、その反論を御書き下さい。(問題の性質上、敢て新字・新かなで表記してあります)。
歴史的仮名遣も現代仮名遣も時間の経過とともに、個々の語のレベルで規則をすこしずつ変えざるをえないという宿命を持っている。一方は学問研究の進展を因とし、一方は発音と語源意識の変化を因とする。そして、前者の変更は、タイムマシンにでも乗らないかぎり、現代語の運用者であるわれわれが、この目とこの耳で正解を確認できない。それに対し、後者は、現代語の運用者であるわれわれが身近に正解を感得できる変更である。現代人の言語生活において、どちらが合理的な(すなわち科学的な)表記法であるかは、もはや言うまでもないであろう。(「かなづかい入門」213頁)
この主張に對する反論の一例を擧げます。
「正解を確認又は感得できるか」どうかで優劣を決めるのであれば、最近の物理學など確認、感得どころか理解さへ、それこそ「タイムマシンにでも乘らない限り」困難な現象の研究にノーベル賞が贈られてゐることをどう御考へなのでせうか。
それはさて措き假名遣の「個々の語のレベルでの」變更は、歴史的假名遣の場合は、契冲以後今日まで續いてゐますが、その數は年と共に減少してゐます。これは「依據する過去の文獻の數が有限」であるといふ基本原則によるもので、理念的にはゼロに收斂する筈です。一方現代假名遣は「現代の」發音に依據するので、今後どのやうな發音變化が起るか全く豫想が不可能です。從つて「變更」は未來永劫續き、やがては過去の表記體系が忘れ去られ、民族の古典が消滅する可能性も無しとしません。
「いや歴史的假名遣はさうした發音變化との乖離が大きくなれば自滅するしかない」と言ふかも知れません。しかし表記の發音からの獨立は逆に發音の變化を抑制する錨の役割を果すとも考へられます。「はは(母)」がハ行點呼で「はわ」となつても「はは」の表記が殘つて發音も再び「はは」となつた例などでは、日常目にする「はは」の表記が「ハワ」以上の發音變化(例へば「わわ」「あわ」など)を防止、且つ復元までしたと言へませう。
練習問題
本年一月から十一囘かけて白石良夫著「かなづかい入門」の批判を行つて來ました。全體を通しての感想、批判を纏めてみて下さい。
2017年11月03日
歴史的假名遣事始め (三十五) 市川 浩
posted by 國語問題協議會 at 11:29| Comment(0)
| 市川浩
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