@五月十日は「五十音圖・あいうえおの日」です
A現在は「五十音表」を名乘らず「あいうえお表」「ひらがな表」と書かれたものが大半󠄁を占めます
B「現代仮名遣い」で學ぶとしても「を」は「オ段」に入れたいものですし、歷史的󠄁かなづかひ(特に文語文)なら尙更です
【主󠄁な漢字の新舊對應表】
國(国) 圖(図) 乘(乗) 學(学) 舊(旧) 對(対) 應(応) 縣(県) 覺(覚) 藥(薬) 發(発) 會(会) 單(単) 兒(児) 實(実) 惱(悩) 觀(観) 聲(声) 榮(栄) 覽(覧) 縱(縦) 竝(並) 樣(様) 區(区) 殘(残) 變(変) 嚴(厳) 收(収) 體(体) 囘(回) 稻(稲) 廳(庁) 藝(芸) 勞(労) 傳(伝) 參(参) 體(体)
■五月十日は「五十音圖・あいうえおの日」
一昨年(令和二年)、石川縣の「山代温泉観光協会」が五月十日を「五十音図・あいうえおの日」に制定し、日本の記念日について情󠄁報を集めたり硏究してゐる「日本記念日協会」公󠄁認󠄁の記念日になりました。私も「五月十日を五十音の日にしてはどうだらう」と前󠄁から提案してゐたものの、「日本記念日協会」への登錄は先を越されてしまひました。
あまり知られてゐないのですが、山代溫泉は「五十音圖ゆかりの地」ださうです。悉曇學(しったんがく)つまり梵字の音韻について學んだ明覺上人(みゃうかくしゃうにん)は、平󠄁安時代後期に、著書の中で五十音圖について示しました。山代溫泉にはその明覺上人が住󠄁職を務めた「藥王寺溫泉寺」があり、同地では「五十音圖發の地」として「今年のにほんごコンテスト」を開催したり、「あいうえおの郷」モニュメントを建てたりと、地域おこしを進󠄁めてゐるさうです。
皆さんも北陸方面へ御出掛けする機會がございましたら、足を運󠄁んでみるのは如何でせうか。
■「五十音表」と「あいうえお表」はどこが違󠄂ふの
以前󠄁他の所󠄁でも書いた內容ですが、再放送󠄁のやうにこちらでも書かうと思ひます。
「五十音圖を書いてみて下さい」と言はれて「こんな簡單なものはない、幼稚園兒でも書ける」と思ふ人は多いでせう。しかし實際に書いてもらふと、「あれ? どうだったかな?」と惱む人が多いのも「五十音圖」です。
どこで惱むかといふと、「ヤ行」と「ワ行」です。皆さんはこの表のどこにどの文字を足しますか。
ヤ行に「や□ゆ□よ」、ワ行に「わ□を□ん」と足した方もいらっしゃるかも知れません。それもそのはず、市販の「あいうえお表」の半󠄁分以上はその配置で、兒童ヘ育用ヘ材を作成󠄁する出版社も、その配置で作成󠄁する事が珍しくありません。
しかし、この配置は、「ゐ」「ゑ」がない事を置いておくとしても、オ段であるはずの「を」がウ段になるのが大きな問題です。これは「歷史的󠄁かなづかひでヘ育するか、現代仮名遣いでヘ育するか」以前󠄁の問題です。現代仮名遣いでヘ育するとしても「を」の字は使ひますが、ウ段ではなくオ段とすべきです。
今度この種の表に出會った時に是非觀察して下さい。題名に「五十音表」ではなく「あいうえお表」「ひらがな表」等とあるはずです。50マス埋まってゐないので「五十音表」ではないからです。揶揄して「穴あき五十音表」と呼ぶ人もゐますし、私も「ヘ育用」としてはおすすめしません(もちろん、名簿󠄁やソフトウェアキーボード等、ヘ育用ではなく、文字を重複させない方が良い場合やスペースの制約󠄁のある場合は、その限りではありません)。
■五十音圖で「い・う・え」はダブらせますが何か?
これが昔ながらの正しい「五十音圖」の配置です。ヤ行は「やいゆえよ」、ワ行は「わゐうゑを」で埋めます。「ん」は五十音に含まれない音なので、表に入れるとしたら欄外に附けておきます。
蛇足ながら、聲優さんをはじめ聲のお仕事をなさる方は「を」がオ段である事をよくご存じのやうです。それもそのはず、「うくすつぬふむゆるう」「おこそとのほもよろを」と發聲練習するからです。
しかし、ここで疑問が生まれます。「ダブった『い・う・え』は要󠄁らないのでは?」「ゐ・ゑは出番がないから要󠄁らないのでは?」「するとワ行を『わ□を□ん』にすれば見榮えが良いから、やはりその方がいいのでは?」しかし「五十音圖」は「ひらがなの羅列表」ではありません。「い・う・え」をダブらせる事や、現代仮名遣いで出番のない「ゐ・ゑ」を入れる事、そして「を」をオ段に配置する事、それぞれに意󠄁味があります。
それを理解する補助線として、元素周󠄀期表を見てみませう。「上に飛び出した部分が邪󠄂魔󠄁なので、平󠄁らにならしたい」と思ったことはありませんか。
しかし、これは「元素周󠄀期表」とは呼べません。ただの「元素一覽表」です。縱に竝んだ元素が似た性質を持つなど、せっかくの縱の配置を崩󠄁してしまったからです。五十音圖も「縱の配置を崩󠄁してはいけない」といふ部分については同じ事が言へます。
話を五十音圖に戾します。ローマ字表記ではこの樣になりますが、
實はYとWは半󠄁分母音(IとU)に近󠄁い音です。つまりヤ行のいはII、ワ行のうはUUとなり、最初からIやUと同じ音で、區別せず同じ文字で書かれました。それに對しヤ行のえ、ワ行のゐ・ゑ・をは元はア行と別の音でしたが、最初にヤ行のえが、後に殘りの字がア行と同じ音になりました。
つまり、最初から發音が一獅フ字は同じ文字で書き、元々發音が異なるが、後で發音の變化󠄁した字は別の字で書くのです。ヤ行のえは發音の變化󠄁した時期が早いため、區別せず「え」で書く事が多いのですが、嚴密な區別が必要󠄁な場合は「江」を崩󠄁した別の字を使用する事もあります。
正しい五十音圖で「い・う・え」をダブらせてゐる「伏線」は、現代仮名遣いによる日常の日本語では少ししか「回收」できません。しかし中學・高校󠄁で學ぶ「文語體の動詞活用」でこの「伏線を大いに回收」できます。皆さんも五十音圖を書く時、ヤ行の「い・え」、ワ行の「ゐ・う・ゑ」を忘󠄁れないでください。
■宣傳
令和四年五月二十一日(土)に國語講󠄁演會が開催されます。
國語問題協議會主󠄁催 第百九囘 春の國語講󠄁演會
「美しい國語」
講󠄁師 安田倫子(武道󠄁家・書家・カルチャーヘ室講󠄁師、本會常任理事)
「祖國とは言葉である」
講󠄁師 吳智英(早稻田大學法學部卒、評󠄁論家、日本マンガ學會元會長、第二十二囘文化󠄁廳メディア藝術󠄁祭功勞賞受󠄁賞)
また、講󠄁演會の後に茶話會も開催されます。傳統的󠄁な國語を愛する人々と交流出來る機會ですので、よろしければ是非ご參加ください。