2024年12月28日

國語のこゝろ(30)「冬󠄀コミ向けに薄い本を作ってみた」/押井コ馬

【主󠄁な漢字の新舊對應表】
國(国) 舊(旧) 對(対) 應(応) 會(会) 數(数) 發(発) 拔(抜) 拔萃(抜粋) 覽(覧) 樣(様) 假(仮) 圖(図) 參(参) 邊(辺) 戰(戦) 體(体) 變(変) 惡(悪) 擇(択) 氣(気) 經(経) 續(続) 廢(廃) 殘(残) 來(来) 傳(伝) 讀(読) 畫(画) 卷(巻) 讓(譲) 藏(蔵) 效(効) 眞(真) 懷(懐) 點(点) 兒(児) 實(実) 學(学) 檢(検) 聲(声) 擧(挙) 廣(広) 譽(誉) 默(黙) 據(拠) 處(処) 獻(献) 當(当) 從(従) 雜(雑) 寫(写) 圓(円) 豫(予)

■一からか? 一から說明󠄁しないと駄目か?
國語問題協議會の栞第七版_ページ01
 今回の新刊は『國語問題協議會の栞 令和六年版』です。版數でいふと第七版で、初版は昭和三十四(一九五九)年、一つ前󠄁の第六版は平󠄁成󠄁十(一九九八)年に發行されました。つまり二十一世紀に入ってから一度も改訂版が出てをらず、およそ四半󠄁世紀振りの改訂となります。
 內容を拔萃した見本は國語問題協議會のウェブサイトに揭載してゐますので、是非御覽下さい。會員の皆樣には全󠄁頁を含む電子版を先行リリースしてゐます。
https://kokugomondaikyo.net/pdf/shiori_r6_sample.pdf

 內容は以下の通󠄁りです。

【國語國字問題と國語問題協議會】
未来にはどんな国語を残したい?
国語年表
質問箱
入會案內
會則
沿󠄂革
役員一覽
【資󠄁料篇】
宣言(昭和三十四年)
同胞󠄁各位に訴へる(昭和三十九年)
國語問題略史(昭和三十四年)
正假名遣󠄁掛圖(主󠄁なかなづかひ)
百漢字 正字新字一覽表
インターネットで得られる參考資󠄁料
五十音󠄁圖

 平󠄁成󠄁十年版までにほぼ共通󠄁して入ってゐたのが「宣言」「同胞󠄁各位に訴へる」「國語問題略史」「入會案內」「會則」「役員一覽」邊りでしたから、半󠄁分くらゐは今回摯竄オた部分です。
 二十世紀とは、自分自身、または親世代、少くとも祖父󠄁母世代なら戰前󠄁のいはゆる「舊字・舊かな」によるヘ育を受󠄁けてゐて身近󠄁にゐたものですから、戰後すぐに「新字・新かな」への國語改革が行はれたことや、「舊字・舊かなとは何ぞや」について、大抵の人が言はれなくとも分かる時代でした。
 しかし二十一世紀の現代は、祖父󠄁母世代ですら新字新かなによるヘ育を受󠄁けた世代がほとんどで、「國語改革の記憶」が忘󠄁れられつつあります。いはゆる「舊字」で書くと「中國のスパイ」扱󠄁ひされる程󠄁です。
 ですから、「用語解說」や「國語改革がいつ行はれ、具󠄁體的󠄁に何が變ったかの槪要󠄁說明󠄁」をもう少し揩竄キ必要󠄁性を感じてゐました。「一からか? 一から說明󠄁しないと駄目か?」はい、その通󠄁りです。
 それから、「國語改革が惡い」と恨み・敵意󠄁むき出しで書かれた文章も、國語改革が記憶に新しかった頃には說得力を持ったでせうが、「物心ついた頃から『新字・新かな』といふ選󠄁擇肢しか知らずに育った」世代には、その恨みがどこから來たのかが分からないうちは、何だか不氣味に思へるでせう。まづは「戰後どんな經緯があったのか」を解說し、たとへば「漢字制限を皆さんが無視して書き續けたので、常用漢字表に復活した字がある」「明󠄁治時代から六十三年振りに漢字廢止の方針が撤回された」「『こんにちわ』『私わ』は四十年掛けても定着しなかった」「三世代で滅ぶはずが、今でも細々と生き殘ってゐる」「コンピュータが漢字に自信の持てる時代を到來させ、傳統的󠄁な國語表記による印刷も復活させた」といふポジティヴな內容を揩竄オました。じっくり讀めばその中から「漢字廢止を計畫してゐたのか」「漢字使用に對し嫌󠄁がらせをしてきたのか」「舊漢字の活字も捨󠄁てられたのか」と、時間差で過󠄁去の歷史に不氣味さを感じてきますが、それでも「國語が逆󠄁境に負けずに生き延󠄁びてきた部分がある」ノンフィクションのストーリーは、きっと讀者の心を打つのではないかと私は思ってゐます。

■新漢字を導󠄁入した訣(わけ)
 蛇足ながら、「未来にはどんな国語を残したい?」「国語年表」「質問箱」の三つの章限定で、正漢字ではなく新漢字を使ってゐます。目次󠄁にも書きましたが、正かなづかひなら義務ヘ育で習󠄁ふものの、正漢字はきちんと學校で習󠄁った人が殆どゐないからです。しかし「慣れれば次󠄁第に讀めるやうになる」と期󠄁待してゐますから、その後の頁は正漢字としましたし、卷末には主󠄁立った正漢字と新漢字の對照表を附けてゐます。
 さういへば昭和三十四年版から昭和三十九年版までは何故か「正字・新かな」で書かれてゐて、昭和五十一年版で「正字・正かな」に改訂されてゐます。戰後ヘ育世代向けに讓步したにしては正漢字なのが謎ですが、初期󠄁の國語問題協議會は『國語國字』にも一部「正字・新かな」の記事があったりと、「どうしても正かなでなければならない」といふ事は無かったやうです。「中國や日本に略字の傳統がある事は認󠄁めるが、略字は飽󠄁くまでも略字であり、正字を知った上で略字と割󠄀り切って使ふ分には良いが、正字をお藏入りにして略字を正とする事には反對」といふのが私の意󠄁見ですが、今回の令和六年版では、理事會に話を通󠄁した上で「最初の章のみ新漢字」とする事にしました。しかし「かなづかひ」については「これまで存在しなかった、傳統と相容れぬ新しい原理原則の表記を導󠄁入した」もので、私としては妥󠄁協したくありません。「広辞苑全󠄁文方式」(「歷史的󠄁かなづかひ」でもあり「現代仮名遣い」でもある表記)とまでは行かないまでも、それに極力近󠄁い表記(例外は主󠄁に「かなづかひ」「現代仮名遣い」等の用語)を採󠄁用しました。

■もう一つの標準がある。さう、アップルのやうにね。
國語問題協議會の栞第七版_ページ05
 導󠄁入部分の章「未来にはどんな国語を残したい?」の作りは、アップルのウェブサイトから發想を得たものです。短いキャッチフレーズを入れ、その後に短めの說明󠄁や圖を入れるといふスタイルです。また、花󠄁森安治先生の創刊した『暮しの手帖』も同じく短いキャッチフレーズが效果を上げてゐたのが印象に殘ってゐました。今回は紙の本で、說明󠄁すべき內容も多いので、さすがに全󠄁部眞似するわけにはいきませんでしたが、エッセンスくらゐは採󠄁り入れたつもりです。
 さて、キャッチフレーズのフォントをどうするか。幸ひ、モリサワが写研のフォントを改刻してパソコン用にリリースしたばかりでした。そこで、「石井ゴシック」といふ、美しいデザインの、そして昭和生れにはとても懷かしいフォントを使ふ事にしました。殘念ながら今のところ正漢字の字形はあまり入ってゐないので、新漢字による章だけで使ってゐます。
資󠄁料篇には正字新字一覽を入れたほか、本會常任理事のアさんのご協力により、主󠄁要󠄁な假名遣󠄁の表も入れてみました。

■五十音󠄁圖の問題を大きく採󠄁り上げたい
國語問題協議會の栞第七版_ページ10
 昭和三十四年時點では兒童ヘ育用の五十音󠄁圖のヤ行とワ行は「やいゆえよ」「わいうえを」が大半󠄁だったと思はれます。後に一部の人が「やいゆえよ」「わいうえお」の五十音󠄁圖を出した事がある(むぎ書房󠄁『にっぽんご』シリーズやテレビ番組『カリキュラマシーン』)ものの定着せず、しかし昭和五十年代前󠄁後からか「や□ゆ□よ」「わ□を□ん」と配置した表が次󠄁第にシェアを伸ばし、現在はそちらが大半󠄁になってゐます。
 今回の本ではこの現實を指摘するだけでなく「學校ヘ科書の檢定では五十音󠄁圖の揭載有無や配置の決まりがない」事、この配置の問題として「@『を』をウ段に配置すると發聲練習󠄁(うくすつぬふむゆるう……)や『現代仮名遣い』でのヘ育でも問題がある」事、「A小學生でも小倉百人一首を學校で學ぶ時代なので『ゐ』『ゑ』を知る必要󠄁がある」事、「B古文の授󠄁業で二段活用を知るのに正しい五十音󠄁圖が必要󠄁である」事を擧げました。
 「現代仮名遣い」によるヘ育でさへ問題があるのです。是非とも兒童ヘ育用の五十音󠄁圖を見直していきたいものです。

■本會の目標とは?
 本會はただ「正字・正かなによる薄い本を年二回發行する」だけのグループではありません。どんなグループなのかが忘󠄁れられつつありますから、この際、まとめて明󠄁文化󠄁してみました。
@國語改革の前󠄁まで社會で廣く使用され、學校ヘ育にも採󠄁り入れられてきた國語表記の名譽恢復、および可能な限りの公的󠄁な立場への復活
A「正字・正かなによる國語」の實質的󠄁な目安として暗󠄁默の諒解であった、「國語改革直前󠄁の時點での國語表記」の調󠄁査と明󠄁文化󠄁
B兒童ヘ育用の五十音󠄁圖の正常化󠄁
C少なくとも文語文は歷史的󠄁かなづかひで書く事が原則である事の啓󠄁發活動
D「正字・正かな」には現在法的󠄁根據が無いが、國語改革前󠄁の法令の一部改正では歷史的󠄁かなづかひによる文語文が今日も新たに書かれる公的󠄁な實態を確認󠄁
E「正字・正かな」をコンピュータで處理する技術󠄁の硏究及󠄁び規格の提唱
F「正字・正かな」による文獻の調󠄁査や閱覽を身近󠄁なものとすべく、手引書を制作
G斯くして「正字・正かな」による表現活動が特殊なものではなく當り前󠄁のものとなる時代を創り出す

■「正字・正かなは作られた傳統」論を斬る
 また、今回の摯笏ナでは、私達󠄁の主󠄁張に對する反對意󠄁見を紹介し、それに反論する「質問箱」といふ章を入れてゐます。
 近󠄁年よく聞く反對意󠄁見で特に多いのが「『正字・正かな』は作られた傳統」論と「『舊字・舊かな』は相手に讀ませる氣がない」論です。
 かつては國民の殆どが「『舊字・舊かな』とは何ぞや」を「從來通󠄁りの書き方で書く」事と大雜把に知ってゐました。しかし戰後ヘ育世代が數を減らしつつある今、怪しい說が幅を利かせるやうになりました。「歷史的󠄁かなづかひは明󠄁治政府が創作した」だの、「戰前󠄁は『和多志』と書いたが、GHQが禁止して『私』と書かせ、國民の拐~が潰された」だの。秒で分かる明󠄁らかな噓もあれば、說明󠄁の一部が正しいため說得力を持ってしまってゐる說明󠄁もあります。
 今回の本では『「正字=康煕字典體」とか「康煕字典の字體が絕對」と主󠄁張するわけではありません』と明󠄁記し、國語改革の前󠄁の活字體と書寫體の考へとはどういふものだったのか、槪要󠄁を說明󠄁してゐます。
 「『舊字・舊かな』は相手に讀ませる氣がない」論やその周󠄀邊の反對意󠄁見についても、副會長の市川さんや私の書いてきた內容を基にまとめてみました。

■それでも過󠄁去の文章は大切
 「宣言」「同胞󠄁各位に訴へる」「國語問題略史」は昭和三十年代に書かれたものですが、私はどうしても切り捨󠄁てる氣にはなりませんでした。國語の將來を憂へてゐた人々の「何とかしなければ」といふ情󠄁熱が感じられるからです。しかしこれは、當時の社會情󠄁勢を知らないと現代では理解しづらい部分もあると思ひます。今回摯竄オた解說を讀んでからこの過󠄁去の文章を讀むと、理解しやすいのではないかと思ひます。

■コミケ二日目で頒布します
C105ポスター
 そんなわけで、原稿を書き終󠄁り、印刷所󠄁にも無事入稿出來ましたので、この本をコミケ二日目で頒布します(500圓)。コミケ終󠄁了後、通󠄁販も豫定してゐます。是非お求めになってお讀み下さい。
 今後も必要󠄁に應じ細かな內容を改訂していく豫定ですので、皆さんのご意󠄁見もお待ちしてゐます。
https://webcatalog-free.circle.ms/Circle/20000376

コミケの頒布物は以下の通󠄁りです。

【國語問題協議會發行】
・『國語問題協議會の栞』500圓
・『國語國字』バックナンバー(183號、216-220號)各300圓
・『令和疑問假名遣󠄁 令和五年版』1,000圓
・『皇室敬語』500圓
・『國語問題協議會四十五年史』2,000圓
・『50音図の「を」をオ段に配置しよう』罐バッジ 200圓

【はなごよみ發行(委託頒布)】
・『コンピュータによる旧字旧かな文書作成󠄁入門 2024改訂版』1,000圓
・『みんなのかなづかひ2025』700圓
・『みんなのかなづかひバックナンバー』(創刊準備號、創刊號、2018-2024)400〜800圓
posted by 國語問題協議會 at 15:00| Comment(0) | 押井コ馬
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