2025年03月08日

日本語ウォッチング(75)「貧慾」/織田多宇人

貧慾
 「貧慾にむさぼり續け……」と言ふ風に某雜誌に書かれてゐたが、貧慾は「貪慾(どんよく)」でなければならない。字體が似てゐるために誤󠄁り易いが、「貧」は音󠄁が「ヒン、ビン」で訓が「まづしい」であるから、貧慾では「ひんよく」と讀むしかなく、意󠄁味も慾が無いことになつてしまふ。一方、貪の音󠄁は「ドン、タン」で訓は「むさぼる」であるから貪慾は非常に慾が深いことになる。「むさぼる」と言ふ時に「貧」を使つてゐる例が多いのは、「貪」と言ふ漢字のあることを知らないためかもしれない。
posted by 國語問題協議會 at 09:05| Comment(0) | 織田多宇人

2025年01月11日

日本語ウォッチング(74)「泥試合」/織田多宇人

泥試合
 武藝や竸技等で優劣を爭ふ「しあひ」は普通󠄁「試合」と書くが、本來は「爲合」であり、「仕合」と書いてゐた。しかし「どろじあひ」は上の「試合」とは關係ない。「泥試合」と書くと「泥を使つてする試合」のやうに受󠄁け取られかねない。「どろじあひ」は互ひに相手の缺點や失敗や祕密を暴いたりして醜い爭ひをすることなので、「泥仕合」と書く可きだらう。
posted by 國語問題協議會 at 19:10| Comment(0) | 織田多宇人

2024年12月07日

日本語ウォッチング(73)「藤󠄁椅子」/織田多宇人

藤󠄁椅子
 「籐椅子」を「藤󠄁椅子」と書いてゐるのを時々見かける。「籐」が常用漢字にないせゐなのかどうかは知らないが。「藤󠄁」の音󠄁は「トウ」で訓は「ふじ」である。「ふじ」は豆科の蔓草(つるくさ)で、藤󠄁蔓は強くて粘りがあるので繩の代用にするが「籐」とは別物である。「藤󠄁」は佐藤󠄁、藤󠄁田、藤󠄁原等の苗字に使はれ、「葛藤󠄁(かつとう)」と言ふ熟語を作るが、「藤󠄁」で作つた椅子があると言ふ話は聞かない。「籐(とう)」は熱帶に產する竹に似た蔓性の植物であり、自由に曲げられるのでこれで椅子を作る、それが「籐椅子」である。
posted by 國語問題協議會 at 10:45| Comment(0) | 織田多宇人