2023年03月11日

かなづかひ名物百珍(24)「なじょもん」/ア一カ

[なじょもん]
 新潟縣中魚沼郡津南町にある「津南町農と繩文の體驗實習󠄁」。繩文時代の生活再現と學習󠄁テーマパークである。「ジョウモン(繩文)」と、それから方言の「なぢょも(ぜひ〜してください)」を組み合せた命名といふ。やや距󠄁離はあるが、「島の娘はなぢょして泣いた」で有名な「ひばりの佐渡情󠄁話(昭和三十七年)」の一節は同じ新潟縣が舞臺である。壽々木米若の浪花󠄁節「佐渡情󠄁話」の流れである。
[佐渡情話]
 「なぢょ」は奧窒ノ廣く分布する方言で、元は『竹取物語』にも用例のある古い言葉である。何といふ→何てふ→なでふ→なぢょ、と變化󠄁してきた。宛字で「何條(でう)」とも書くが、假名遣󠄁は合はない。

 「なぢょ」と「ジョウモン」の合成󠄁とすれば、假名遣󠄁はどうあるべきなのだらう。由來が明󠄁確であるがゆゑに假名遣󠄁の疑念が生じる語の典型例といへよう。
posted by 國語問題協議會 at 09:45| Comment(0) | 高崎一郎

2023年01月14日

かなづかひ名物百珍(23)「しをん・ぢょをん」/ア一カ

『古今集(441)』讀人不知の歌に
「ふりはへていさふるさとの花󠄁見むとこ[しをに]ほひそうつろひにける」
「しをに」の語が隱れてゐる。「物名(もののな)」または「隱題(かくしだい)」と呼び、歌の內容と關係のない言葉を詠み込󠄁む言語遊󠄁戲である。

 この「しをに」は「紫苑(紫菀)Aster tataricus」の事。漢字が傳來した頃の日本語では「ん」などの音󠄁に馴染めず、「しをん」に「i」をつけた。「えん(緣)→えにし」や「せん(錢)→ぜに」も同樣である。「菀」は草の茂る意󠄁で、「苑」はその略字で、同義と考へてよいだらう。少くとも庭󠄁園の意󠄁味ではない。ちなみに學名の「Aster tataricus」は「韃靼の星」の意󠄁らしい。『萬葉集』に「鬼乃(之)志許草」とあり、古來「鬼(おに)の醜(しこ)草」の異名があるが、じつは「しこのしこ草」の誤󠄁讀との說もある。

[紫苑]
【紫苑】

[姫紫苑]
【姬紫苑】

[姫女苑]
【姬女苑】

[春紫苑]
【春紫苑】

[春紫苑・姫女苑]
【姬女苑・春紫苑】

 さて「紫菀(シヲン)」と「女菀(ヂョヲン)」の名は非常に紛はしい。
(1)シオン、紫苑・紫菀(漢名も同樣)Aster tataricus。
(2)ヒメシヲン、姬紫苑(漢名ヂョヲン女菀)Aster fastigiatus。
(3)ヒメヂョヲン、姬女苑(漢名一年蓬)Erigeron annuus。
(4)ハルジヲン、春紫苑(漢名未詳)Erigeron philadelphicus。

『ハルジョオン・ヒメジョオン』
 この四種はしばしば混同され、松任谷由實は『ハルジョオン・ヒメジョオン』といふ曲を出してゐるが、「ハルジョオン」などといふ植物は存在しない。(3)(4)は明󠄁治以降の歸化󠄁植物で、道󠄁端でもよく見かける。ただし花󠄁の姿󠄁は酷󠄁似し、辨別は難しい。

 「三浦しをん」は小說家。本名も同じといふ。
posted by 國語問題協議會 at 12:00| Comment(0) | 高崎一郎

2022年12月16日

かなづかひ名物百珍(22)「をけら祭(サイ)」/ア一カ

[をけら祭]
 京キ八坂~社の元旦の~事。現在も「をけら」表記。舊稱「祇園削󠄁掛~事(ぎをんけづりかけのしんじ)」。

 ヲケラ(朮、Atractylodes japonica)は菊科朮屬の多年草。漢方の生藥「白朮(びゃくじゅつ)」はその地下莖。蟲類のケラ(螻蛄)とは關係ない。賭事などに負け所󠄁持金の無い意󠄁味の「おけら」は螻蛄から來た隱語である。
posted by 國語問題協議會 at 21:10| Comment(0) | 高崎一郎