2025年03月02日

かなづかひ名物百珍(43)「づばいもも(椿桃・油桃)」/ア一カ

[づばいもも]
づばいもも(椿桃・油桃)

 近󠄁年は「ネクタリン」の方が通󠄁りがよいだらう。桃の一種だがやや李(すもも)に近󠄁い。「づばい」は「つばき(椿)」の轉とされ、「づんばい」「づばいぼう」などとも呼ばれる。「油桃」の名は表面に毛がなくつるりとした肌ざはりに由來するらしい。

 「づんばい(飄石)」は石つぶて、あるいはその遊󠄁びを指す語だが、恐󠄁らく桃と關係はないだらう。今ではもう身近󠄁な語とは言へまい。
[ずんばい]
[ずんばい]
 鹿兒島方言で「ずんばい」は物がたくさんある意󠄁で、「ずっぱり」の轉である。こちらは燒酎の銘柄󠄁などで大いに活用されてゐる。
posted by 國語問題協議會 at 11:15| Comment(0) | 高崎一郎

2025年01月04日

かなづかひ名物百珍(42)「中峠(なかびょう)」/ア一カ

[中峠]
 千葉縣下に「ビョウ」といふ地名が散在する事は、柳田國男著『地名の硏究』の「峠をヒヤウと云ふこと」で詳細に說かれてゐる。「瓢・俵・鋲・㟽・兵・尾餘」など類似の地名を博搜し、古文獻も斟酌󠄁しつつ、土地の境界を示す「標(ヘウ)」の轉と結論づけてゐる。それなら假名遣󠄁は「ベウ」だらう。

 しかし近󠄁年、我孫子市史硏究センターにおける有志が類似地名200ヶ所󠄁を踏破し、また現地での聞き取り調󠄁査など於ヘ的󠄁におこなった結果、「谷津から臺地に登っている土地」との說をたてるに至った。そのやうな地形を「ひよ」と呼び、漢字は後からそれぞれ宛てたものといふ。語音󠄁の變遷󠄁はさまざまあるといへ、なるほど「ベウ」と「尾餘」では懸隔がある。

 結局「峠」の假名遣󠄁は未詳のまま「びょう」とせざるを得ない。

{假名遣󠄁未詳}
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2024年12月03日

かなづかひ名物百珍(41)「いづめこ」/ア一カ

[いづめこ]
 山形縣鶴岡市のク土玩具󠄁。本來「詰籠(いづめこ)」とは農作業でを携帶するため藁を編󠄁んだ保溫籠の稱。寒󠄁さよけのためこれに幼兒を入れて育てる習󠄁慣から、大正時代に創作された。「いづみ」とも。現在、「いずめこ」表記はほとんど見られない。

[いづめこ]
[いづめこ]
 類似の育兒用防寒󠄁具󠄁は東北地方に分布し、「イズメ・イズミ・イジコ・エズコ・フゴ・ツブラ・ツグラ」などさまざまに呼ばれる。「いづみ」は「いづめ」の變。「イジコ」「エズコ」も「いづめこ」の變、もしくは「嬰兒籠」とされるが「嬰兒」は日常語として硬すぎる表現に思はれる。

 「ふご(畚)」は「もっこ(簣)」や「びく(魚籠)」と同義。「畚」は「辨+田」から成󠄁る漢字で、「參(參)」との繫がりは無い。「つぶら」「つぐら」は「つぶ(圓)ら」の意󠄁であらうか。
posted by 國語問題協議會 at 18:40| Comment(0) | 高崎一郎