「築󠄁地(ついぢ)塀」は版築󠄁工法の土塀、また「築󠄁地(つきぢ)市場」はもと埋立地を意󠄁味する地名であった。この二つの語は同じ「ぢ(地)」でも音󠄁訓が異る。「ついぢ」は「つき(築󠄁)+ひぢ(泥)」のイ音󠄁便で、「土方(ひぢかた)歲三」でわかるやうに水分の多い土「ひぢ」の轉である。一方の「つきぢ」は埋立てて新しく築󠄁いた「地(ち)」で、字音󠄁由來である。
地名の「築󠄁地」は東京ばかりでなく、「ついぢ」「つきぢ」共に全󠄁國に廣く分布する。「つきぢ」の方が川岸や海沿󠄂ひにあるとも限らず、どちらの語に由來するのか穿鑿は容易ではない。「つきぢ」から「ついぢ」へと變化󠄁した可能性もあるだらう。
さて「字音󠄁假名遣󠄁だけは發音󠄁どほりでよいのではないか」といふ意󠄁見は昔からあり、現實的󠄁な對處法であると筆者も思ふ。『廣辭林(大正14年初版)』はその嚆矢で、「ついぢ」「つきじ(ぢ)」兩語を的󠄁確に排列してゐる。語によっては音󠄁訓の別が判󠄁然としないし、またそれを日常するとも限らない。
小學『日本國語大辭典(二版)』は最大規模の國語辭典であり、かつ最も標準とされる。編󠄁輯に携はった松井榮一氏の著作によると、古語も收錄するため和語のみ歷史的󠄁假名遣󠄁排列にする案がかなり有力であったらしい。結局はすべて現代假名遣󠄁順となり、「古語も現代假名遣󠄁で扱󠄁へる」實例を作ってしまったのは返󠄁す返󠄁す殘念な事であった。