2024年12月03日

かなづかひ名物百珍(41)「いづめこ」/ア一カ

[いづめこ]
 山形縣鶴岡市のク土玩具󠄁。本來「詰籠(いづめこ)」とは農作業でを携帶するため藁を編󠄁んだ保溫籠の稱。寒󠄁さよけのためこれに幼兒を入れて育てる習󠄁慣から、大正時代に創作された。「いづみ」とも。現在、「いずめこ」表記はほとんど見られない。

[いづめこ]
[いづめこ]
 類似の育兒用防寒󠄁具󠄁は東北地方に分布し、「イズメ・イズミ・イジコ・エズコ・フゴ・ツブラ・ツグラ」などさまざまに呼ばれる。「いづみ」は「いづめ」の變。「イジコ」「エズコ」も「いづめこ」の變、もしくは「嬰兒籠」とされるが「嬰兒」は日常語として硬すぎる表現に思はれる。

 「ふご(畚)」は「もっこ(簣)」や「びく(魚籠)」と同義。「畚」は「辨+田」から成󠄁る漢字で、「參(參)」との繫がりは無い。「つぶら」「つぐら」は「つぶ(圓)ら」の意󠄁であらうか。
posted by 國語問題協議會 at 18:40| Comment(0) | 高崎一郎

2024年10月12日

かなづかひ名物百珍(40)「おゆみ野」/ア一カ

 千葉市甑スのニュータウン。京成󠄁電鐵「おゆみ野驛」や千葉市中央區生實町からかなり離れてゐるが、中世の「小弓城」や江戶時代の「生實藩」の範圍內といふ。一說に上代の「麻󠄁績(をみ)」に由來するといふから「をゆみ野」とすべきかもしれない。「大弓」や「御弓」の表記もあるが、いづれも後世の宛字の感がある。

 吉田東吾『大日本地名辭書』(3247ページ)では「生實」に「オヒミ」の假名を振ってゐる。「生」には「おひる・おふ」「はえる・はゆ」二種の訓があり、そもそもハ行とヤ行を混同しがちである。そこへ「おゆ」を宛てるのは本來かなり苦しい。さう惡字でもない「老」などがふさはしかったと思ふ。もっとも「用ゐる」をヤ行に誤󠄁った「用ゆ」はしばしば見られるから、「オユ」も可といへば可なのだらう。
posted by 國語問題協議會 at 09:15| Comment(0) | 高崎一郎

2024年09月20日

かなづかひ名物百珍(39)「役小角(えんのをづぬ)」/ア一カ

[役小角]
 飛鳥時代の行者で各地の修驗道󠄁の開祖。實在とされるが、事蹟の多くは後世の~格化󠄁による。「~變大菩薩」はェ政年間の諡號。
 姓の「役」を「エン」と讀むのは字音󠄁「エキ」の變化󠄁であらう。「エキ+立ち=えだち(役)」や「エキ+病み=えやみ(疫)」の如く、意󠄁外な言葉に字音󠄁の痕跡が殘ってゐる。「いらつめ(カ女)」など純粹な和語であるが、「カ(ラング)」の字音󠄁を「いら」に宛てたものといふ。
[役小角]
 現行の辭書類では槪ね「小角」を「おづぬ」と表記する。しかし一般には「おずぬ」も散見する。たとへば地酒の銘柄󠄁「小角」など、販賣店により「おずの」「おずぬ」「をづぬ」と樣々で、どれが本當かわからない。單純に手許の辭書を參照した結果なのかもしれない。
[役小角奈]
 「役小角奈」は「六十三代目役行者」の設定による「ご當地萌えキャラクター」らしい。こちらは「おづな」。またその從姉妹「役追󠄁儺」は「ついな」と、今風の工夫に感心しつつできれば「をづな」でありたかった。
posted by 國語問題協議會 at 19:40| Comment(0) | 高崎一郎