2024年06月10日

かなづかひ名物百珍(35)「いぎす豆腐」/ア一カ

[いぎす豆腐]
[いぎりす]
 愛媛󠄁縣今治や越智などP戶內海地方のク土料理。海藻のイギス(Ceramium kondoi)やアミクサ(Ceramium boydenii)を煮溶かし固めたもので、長崎や熊本では同趣のものを「いぎりす」と呼ぶ。もちろん國名の英吉利とは無關係である。

[おきうと]
 また日本海沿󠄂岸から西日本にかけ、「ゑごのり、惠胡海苔(Campylaephora hypnaeoides)」を用ゐた類似品が分布する。
佐渡の「いごねり」「えごねり」
新潟や長野縣(北部)の「いご」「えご」
京キ府の「うご」
更にiェの「おきゅうと」・「おきうと」
など樣々に呼ばれる。

 「おごのり、海髮(Gracilaria vermiculophylla)」は全󠄁く別種の海藻で、刺身のつまや天草と共に寒󠄁天の材料となる。正倉院文書に「於期󠄁」とあり、假名遣󠄁は「おご」で間違󠄂ひないだらう。

 「いぎす」「ゑご」の語源などは未詳である。この場合、上記の料理はたとへば「ゐぎす」「ゐごねり」などとすべきであらうか。「クロクワヰ(K慈姑)」の異名「ヱグ(惠具󠄁)」や、「ヱゴノキ(野茉莉、Styrax japonica)」はそれぞれその味が「ゑぐい」事による名稱といふ。しかし惠胡海苔にそのやうな記述󠄁はなく、一般的󠄁な漢字表記「惠胡」から「ゑご」と導󠄁いたものかもしれない。「おきうと」も「沖獨活」「お救人」など宛字かどうかは判󠄁然としない。
posted by 國語問題協議會 at 12:30| Comment(0) | 高崎一郎

2024年05月19日

かなづかひ名物百珍(34)「ユ(郵便車)」/ア一カ

[ユ]
[ユ]
 「型番」とは「型式番號」の略で、多くは「abc-001」の如く英數字の羅列からなる。身近󠄁な例外は鐵道󠄁車輛の側面にある「クモハ」「ロネ」といった記號であらうか。たとへば「クモハ」は「運󠄁轉臺+動力+三等車」を意󠄁味し、「驅動(ク)+モーター(モ)+イロハの末尾」だといはれる。ただし略稱の由來は推測が多く、好事家の蘊蓄を競ふ恰好の話題となってゐる。
 昭和61年まで郵便專用の鐵道󠄁があった。戰前󠄁から續く略稱「ユ」はほぼ間違󠄂ひなく「郵便」の頭文字だらう。しかし「郵」の字音󠄁は「イウ」であり、假名遣󠄁の觀點から、些かの違󠄂和感を禁じ得ない。「救援󠄁車」の「エ」も「援󠄁」の略とすれば「ヱ」がふさはしからう。とはいへ「ゆうメール」「ゆうパック」「ゆうゆう窗口」などの語を敢て「いう」に直すのは滑稽でもあらう。
 舊滿洲鐵道󠄁「あじあ號」の機關車型式「パシナ」「パシハ」は「パシフィック7型」「同8型」の略と聞く。この時期󠄁の略稱は現場の聲を文字に固めたやうな息遣󠄁ひを感じるものが多い。型式と愛稱の大きく分離した現在、無機質な整理番號と化󠄁すのは時代の趨勢なのであらうか。
posted by 國語問題協議會 at 08:00| Comment(2) | 高崎一郎

2024年01月07日

かなづかひ名物百珍(33)「おしくらごう」/ア一カ

[おしくらごう]
[おしくらごう]
 山口縣萩市玉江浦における和船競漕の傳統行事。嚴島~社の例祭に開かれる。起󠄁源は不明󠄁だが少くとも江戶時代中期󠄁に溯り、一說に毛利水軍のすゑとも言ふ。玉江浦は萩城の西、萩川(阿武川)河口に位置する。
 「おしくら」は「押しくら(競)べ」の轉とされるが、「ごう」の由來は未詳といふ他ない。
posted by 國語問題協議會 at 16:40| Comment(0) | 高崎一郎