2025年01月11日

日本語ウォッチング(74)「泥試合」/織田多宇人

泥試合
 武藝や竸技等で優劣を爭ふ「しあひ」は普通󠄁「試合」と書くが、本來は「爲合」であり、「仕合」と書いてゐた。しかし「どろじあひ」は上の「試合」とは關係ない。「泥試合」と書くと「泥を使つてする試合」のやうに受󠄁け取られかねない。「どろじあひ」は互ひに相手の缺點や失敗や祕密を暴いたりして醜い爭ひをすることなので、「泥仕合」と書く可きだらう。
posted by 國語問題協議會 at 19:10| Comment(0) | 織田多宇人

2025年01月04日

かなづかひ名物百珍(42)「中峠(なかびょう)」/ア一カ

[中峠]
 千葉縣下に「ビョウ」といふ地名が散在する事は、柳田國男著『地名の硏究』の「峠をヒヤウと云ふこと」で詳細に說かれてゐる。「瓢・俵・鋲・㟽・兵・尾餘」など類似の地名を博搜し、古文獻も斟酌󠄁しつつ、土地の境界を示す「標(ヘウ)」の轉と結論づけてゐる。それなら假名遣󠄁は「ベウ」だらう。

 しかし近󠄁年、我孫子市史硏究センターにおける有志が類似地名200ヶ所󠄁を踏破し、また現地での聞き取り調󠄁査など於ヘ的󠄁におこなった結果、「谷津から臺地に登っている土地」との說をたてるに至った。そのやうな地形を「ひよ」と呼び、漢字は後からそれぞれ宛てたものといふ。語音󠄁の變遷󠄁はさまざまあるといへ、なるほど「ベウ」と「尾餘」では懸隔がある。

 結局「峠」の假名遣󠄁は未詳のまま「びょう」とせざるを得ない。

{假名遣󠄁未詳}
posted by 國語問題協議會 at 15:35| Comment(0) | 高崎一郎

2024年12月31日

國語のこゝろ(31)「『國語問題協議會の栞』完賣」/押井コ馬

【主󠄁な漢字の新舊對應表】
國(国) 會(会) 賣(売) 當(当) 萬(万) 兩(両) 來(来) 參(参) 驛(駅) 數(数) 竝(並) 豫(予') 屆(届) 發(発) 圖(図) 專(専) 圍(囲) 讀(読) 拂(払) 圓(円) 疊(畳) 册(冊) 殘(残) 廣(広) 臺(台') 收(収) 關(関) 營(営) 區(区) 畫(画) 氣(気) 證(証) 餘(余') 掾i増) 價(価) 獻(献) 假(仮) 歸(帰) 樂(楽) 譯(訳) 卽(即) 樣(様) 點(点) 

■『國語問題協議會の栞』完賣
 令和六年十二月󠄁三十日開催「コミックマーケット一〇五」(以下「コミケ」)に押井コ馬・ア一カの二人が「國語問題協議會」として出展し、『國語問題協議會の栞』ほか正字・正かなの本を頒布しました。
[東京ビッグサイト]
 東京ビッグサイトの東・西を二十九〜三十日の二日間使ひ、一日當り一萬五千近󠄁くのスペースが出展。兩日とも約󠄁十五萬人が來場しました。開場は十時半󠄁ですが、私達󠄁はサークル參加者として八時から九時半󠄁まで入場出來ます。りんかい線の國際展示場驛を下りると、比較的󠄁スムーズとはいへ、サークル參加者だけでもまるで蟻の行列のやうに大群を成󠄁して會場へと進󠄁んでいきました。そしてその右脇には、更に大人數の、一般參加者の待機列。初めてのアさんも、整然と列に竝んで待機してゐる姿󠄁に感銘を受󠄁けてゐたやうでした。
 入口では、豫め郵送󠄁されてゐたサークルチケット(一サークルで長机半󠄁分(幅九十センチメートル)が基本で、その場合二枚屆く)をリストバンドに交換し、腕に卷きます。ホールに入ると、整然と竝んだ長机。その一つのまた半󠄁分が自分達󠄁のサークルスペースです。その机の下には印刷所󠄁からの段ボール。コミケと提携してゐる印刷所󠄁に入稿すると、刷り上がった本をサークルスペースの机の下に屆けてくれるのです。
 それ以外の既刊本は、宅配便(佐川急󠄁便)で事前󠄁に發送󠄁してゐましたが、ホールの隅に受󠄁取窓口があり、そこから自分達󠄁の机へと運󠄁びます。これで頒布する本が揃ひましたが、今回初めてコミケで頒布する本は、見本を一部づつ本部に提出する必要󠄁があります(違󠄂法な出版物でないかチェックするのと、コミケの頒布物の圖書への納󠄁本のため)。表3(裏表紙の裏)に書誌情󠄁報を記載したステッカーを貼り、專用の封筒に入れて本部のポストに入れれば完了です。
 机半󠄁分のスペースをどうレイアウトするかは、許容範圍の中であれば全󠄁く自由です。テーブルクロスを敷き、値札の附いた立讀み用の見本誌と、その下に頒布用の本を平󠄁積みするのが、本の種類の少ないサークルによくあるレイアウトです。來場者は見本誌を取ってパラパラとめくり、氣に入ったらその下の本を取ってお金を拂ふ仕組みです。普通󠄁の本屋と違󠄂ひ、紙袋は用意󠄁してゐない事が多いので、バッグを持ってくるか、本部で紙袋を買ふか(三百圓だが賣切れ注󠄁意󠄁)します。
[國語問題協議會のサークルスペース]
 本の種類の多いサークルの場合、幅九十センチの限られたスペースにどう陳列するかが腕の見せ所󠄁です。私の場合、折疊み式の「雛壇」を使って、A5の册子を最大十二種陳列し、殘りのスペースには數の多い新刊を平󠄁積みしたり、バックナンバーは段ボール箱の中にまるでレコードのやうに立てて陳列する方式を採󠄁ってゐます。
 廣い會場なので、サークル名や頒布物を書いたポスターがあると目印になりやすいものです。各サークルスペースには番地が振ってあるので、それも書いてあると、自分は今どこにゐるのか分かりやすくなります。ポスタースタンドは、四十センチの短い棒と臺座をねぢ留めで連結して長い二メートルのスタンドにし、終󠄁了後は分解して宅配便の箱に收納󠄁出來るもの(商品名PO.SU.TA)も賣られてゐて便利です。
 私達󠄁のサークルスペースの左右も、漢字、校正、古代ギリシャ語など言葉に關する本を頒布してゐるサークルが竝んでゐました。設營が完了し、一般參加者が入場するまでの間、お隣と挨拶したり、どんな本を出してゐるのか紹介し合ひましたが、形態素解析ソフトに關するアさんのマニアックな質問もすぐ理解して答へが返󠄁ってくるといふ環境は、他ではなかなかありません(本會でも知る人はなかなかゐません)。
 十時半󠄁が開場時刻ですが、一般參加者が私達󠄁のゐる區畫にすぐ來るといふわけではありません。巨󠄁大な列が出來てゐて入場制限が掛かってゐますし、最初に行くのはすぐ賣切れさうな人氣サークルでせう。入場證代りのリストバンドは「アーリー入場」(午前󠄁の優先入場)「午前󠄁」「午後」の三種類あり、午後組は餘程󠄁早く來た人でない限り、中に入れるのは恐󠄁らく一時臺です。それでも十一時半󠄁頃になるとだんだん來場者が揩ヲてきて、一時臺がピークでした。
 今回は「國語問題協議會」の「のれん」(比喩的󠄁に)をお借りして出展した事で、その「のれん」の知名度に改めて驚かされました。「國語問題協議會」の名前󠄁を知ってゐた來場者も多く、「sc恆存先生のゐたグループですよね?」等と質問されることもありました。そして、「はなごよみ」として出展してゐた時と比べると、頒布部數はぐんと伸び、正字・正かなの本としては最大の賣れ行きでした。特に『栞』(會場頒價五百圓)は完賣しました(コミケでの出會ひは一期󠄁一會かも知れませんから、本會役員に獻本する分を一部後回しにして頒布した程󠄁です)。次󠄁に賣れたのが『みんなのかなづかひ二〇二五』。歷史的󠄁かなづかひのマニアックな情󠄁報を集めたニッチな本『令和疑問假名遣󠄁』も、これだけの大規模イヴェントでは需要󠄁がありますし、一番驚いたのが、まるで社史のやうに需要󠄁の無ささうな『國語問題協議會四十五年史』を「どうせ賣れないから二部だけ」と絞って持って行ったところ、早い時期󠄁に完賣してしまひました。
 一時間半󠄁掛けた設營とは對照的󠄁に、撤收は十五分。そしてその後に宅配便の列に竝んで搬出。『栞』はもちろん他の本もかなり配れたので、搬入した箱+印刷所󠄁から送󠄁られてきた三箱(『栞』・『みんなのかなづかひ』二種)の內、後者を潰して一箱にまとめられる程󠄁でした。「歸りの箱が減る」といふのは、成󠄁果が一目で分かる嬉しい指標です。行きの驛のスムーズさと比べ、歸りの驛は入場制限が掛かってゐて、何十分か待たされました。それでも整然と列を作って根氣強く待つのが日本人そして日本人に混ざる外國人のオタク。疲れてはゐましたが、今日やる事をやり切って心地良い疲れでした。
 そんなわけで、この册子は現在在庫がない、といふ嬉しい誤󠄁算と共に、通󠄁販を樂しみにしてゐた方には、發送󠄁が遲くなりさうで申し譯ありません。早めに搓する豫定ですが、一月󠄁にも同人誌卽賣會が多くて印刷所󠄁も忙󠄁しく、今からョんでも一月󠄁後半󠄁になる可能性があります。もうしばらくお待ち下さい。
 會員でない方からは「正字・正かなについて一册で知る事の出來る本はないか」といふ質問が以前󠄁からよくあり、今囘も來場者からこの質問が時々ありました。この册子が出來た事で、「槪論としてはこの本に纏まつてゐます」とやつと言へるやうになり、それが大抵『栞』の購󠄂入に繫がりました。
 立讀みする讀者も、特に冒󠄁頭の「未来にはどんな国語を残したい?」の章に大抵注󠄁目してゐたのが印象的󠄁でした。この解說が後の方の「宣言」「同胞󠄁各位に訴へる」「國語問題略史」の背景を理解する助けになる事を期󠄁待してゐます。
 『栞』の復刊リクエストを下さつたり、資󠄁料を提供して下さつたり、ご意󠄁見を下さつたり、出展や册子の制作を應援󠄁して下さつた皆樣、今回のサークルスペースの相棒で、接客や上手な說明󠄁等々をしてくださったアさん、そしてサークルスペースにお越し下さったり本をお求め下さった皆樣、本當に有難うございました。

 これは私達󠄁の反省點ですが、國語問題協議會は「外部へのアピールが足りない」缺點がありました。名前󠄁だけは知ってゐても、どんな主󠄁張をして、どんな活動をしてゐるのか、外部にはあまり知られてゐませんでした。數年前󠄁から、「國語講󠄁演會」への參加方法や道󠄁順や會の槪略などを記したカラフルなパンフレットを作成󠄁するやうになり、會員でない方への說明󠄁がしやすくなりました。そして今回は『栞』ですが、この册子は遲くとも昭和三十九年には「入會案內」があったり、初期󠄁の版は現代かなづかいで書かれてゐたりと、そもそもの始まりが「會員でない方も對象にした册子」でした。今回の改訂版が、國語國字問題や本會の活動について更に多くの方に知っていただく切っ掛けとなれば嬉しく思ひます。
 四半󠄁世紀振りの「メジャー・アップデイト」ですから、昨日頒布したもので完璧とは思ってゐません。今回の版は「叩き臺」で、皆さんのご意󠄁見も參考にしながら內容を鍊させ、「かゆいところに手が屆く」「國語に關して何となく抱󠄁いてゐたモヤモヤがすっきりし、より良い國語を未來に殘していかうといふ決意󠄁を抱󠄁かせる」內容の册子にしていきたいと思ってゐます。

■讀者からのご感想






posted by 國語問題協議會 at 19:30| Comment(0) | 押井コ馬